3月14日、ホワイトデー。

「さあて。今日は何の日かご存知かなあ? リドルくん!」

にやにやしながら振り返って、リドルに問いかけてみる。
頬が緩みっぱなしの私とは正反対に、とっても興味なさそうである。
冷めた燃えるような紅い瞳を本からうつすことはなく、その目はただ字を追っている。
レディにとって失礼な態度……まあいつもの事だけどさ、に苛立って、机をばしんと両手で叩き、ずいっと顔を近づける。

「あ、し、た、は、何、の日?」
「おなまえ、うるさい」
「ちょっ……まさか覚えてないの? それとも覚えて言ってるの意地悪してるの?」

日本から留学にきた私にはなじみのない習慣だけれど、外国のバレンタインデーは男の人から女の人に、って事になってるらしい。
もちろん生まれてからホグワーツにくるまでずっと日本に居たのだから、私はそんな事は露知らずに、バレンタインデーにリドルにチョコレートを渡そうとしてしまって、とてつもなくからかわれた、という思い出すだけでも腹が立つ事実は、記憶に新しい。何しろ一ヶ月前だしね。

それでも、リドルは受け取ってくれた。
案の定マズイとか言いながらだけど、それでも全部食べてくれた。
とってもとっても嬉しかったので、テンションが上がった私は3月14日にお返し頂戴ね、とリドルに無理矢理約束させたのだった。

「ねえ、早くお返しちょうだいよ!」
「……は? 何の事だい」
「ななななんのことだと……! しっかり約束したくせに! 絶対覚えてるくせに!」
「耳元で騒ぐなうるさい」

詰め寄る私に顔をしかめて彼は、これだから猿女は、と失礼すぎる言葉を吐いた。
あんまりな言葉に、じわりと湧き出る熱い水。

「何よ、もうリドルなんか知らない! ていうかもう絶交だし! ぜえったい話しかけてこないでよね! ばーかばーか! リドルのハゲ!」

それでも、彼という人にたやすく涙を見せるのは癪だからと、精一杯強がり、涙が零れ落ちないうちに踵を返した。
もう、自室に戻ってベッドに顔を伏せてわんわん泣いてしまおう。そしてあわよくばマリア達に慰めてもらおう。リドルの悪口たくさん言ってやる。ほんと最低!

右手で両目を隠しながらそんな事を考えてたら、痛いくらいに左手を強く掴まれる。
強い力で引っ張られ、強制的に足が止まる。

「っちょ……」
「何、あれくらいで泣いたの。どうしようもない馬鹿だね君は」
「な……」
泣かせたのは誰だと思ってんだかこの俺様はっ!
「っもう、離してよ、ばかばかばか根暗陰湿スリザリンッ…」

掴まれた左手をはずそうともがいていたら、不意に右手もとられ、視界があける。
一番に視界に入ったのはリドルの綺麗な顔。
それが、いつもの冷たい顔じゃなくなんだか真剣な表情だったから、つい息を呑んで身体を縮こまらせてしまう。
ああこれだから彼の紅い瞳は。(逆らえないのもそうだけど、逆らいたくなくなるのが困り者)

なんだか見つめ返すことが出来なくて、目を逸らしてみる。のが間違いだった。
両頬をつかまれて、強制的に視線を合わされる。
周りの空気すら息をつめるように、とても静かに感じられた。

「おなまえ」
「…………な、なに」
「逃げるな」
「べ、別に逃げてなんてない……よ」

と言いつつまた視線をそらそうとすると、突然、くちびるにやわらかいなにかが触れた。
一瞬だったけれど、どうやら私は、リドルにき、キスされたらしい。

「リ、リリリド、ル?」

あまりの事にろれつが回らず、顔に熱が集中する。
たぶん真っ赤なんだろう、そんな私を見下ろして、リドルは不適にわらった。

「僕から逃げ出そうとするのも僕を見ないのも、もちろん逆らう事だって許さないよ。君は僕のものなのだから」

あまりにエゴイスティックな発言。
なのに胸が苦しいのは、私が彼に恋愛をしているからなんだろう。

「ねえおなまえ、返事は?」

わかりきったような口ぶり。
甘い少年の誘惑の声にうながされて、わたしは。







「はいお返し」
「ってあったんじゃん! やっぱり覚えてたんじゃん! リドルさいて、」
「へえ?」
「うわあああああああいうれしいいいいいなああああ」
「ありがとう御座いますは?」
「ありがとう御座いますリドル様」
「そう、よかった」
「もうやだこの人」


リドルくんがヒロインに何を渡したのかは皆様のご想像に。
 



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