「…………迷った」
ああ、数分前の私を呪う。
好奇心は猫をも殺す、という先人のお言葉があるっていうのに。
案の定、好奇心に負けたごく普通の美少女な私は、ごく普通に迷っていた。
右も左も同じような回廊ばかりで、不審者さん達と鬼ごっこをした時もすごく思ったけど、まるで迷路だ。
卿を見つけるどころか、人っ子一人すらいない。
や、居たとしてもどうせそれは変なマスク被った不審者さんだろうから、むしろ居ないほうがいいのかもしれないね。
私はけして方向音痴ではないのだけれど、右も左も分からない場所で目的地にたどり着くなんて出来るわけがない。
むむむと悩んでいる丁度その時、ぐう、とお腹の虫が悲鳴をあげた。
誰も居ないから聞いてる人は居ないけど、でもやっぱりちょっと恥ずかしい……ていうか、お腹すいた……。そういえば、今朝は急いでてご飯を食べてなかったような……。
もしかしてこのまま餓死とか、しない、よね?
それだけは勘弁だよ!
「あああー……おなかすいたのですよ……誰かチョコくれ」
ぽつりと呟いてみるも、もちろん返ってくる言葉なんて無い。
沈黙と響く声が虚しさを倍増させている。わかりました独り言はもうやめます。
「ん?」
空腹を耐えながらあてどなくさ迷っていると、ばたばたと何やら騒がしい足音。
嫌な予感がしつつも振り返ってみると、背後にバシッ、という乾いた音。
「インカーセラス!」
あわてて振り返るのと同時に、ロープに身体を拘束される。
「え、ちょ、待って何……ぴぎゃああああっ」
よく見てみると目の前に居るのは先日派手な鬼ごっこをして遊んだ不審者もとい……多分、私の考えによるときっとこの人達は死喰い人!間違いない!
もがいてロープから逃れようとと試みるけど、魔法の前には人間の力などなんと非力なことか。
わりと乱暴に服を掴まれ、引っ張られる。
「我が君がお待ちだ。手間をかけさせるな、……マグルの小娘が」
泣く子も黙る、喚く私も黙る。
「し、失礼しまーす、です……」
連れて行かれたお部屋は、なんていうか全体的に暗かった。
窓から光が差さないどころじゃない、そもそも窓がない。天井に吊るされたランプの中の、ほのかなオレンジの光と、壁際に並び小さくゆらめく燭台。
それらのものが、わりと不気味な感じに部屋を照らしていた。今日がハロウィンなら私、喜んだかもしれない。
……で、奥のほうに偉そうに偉そうに椅子に座ってる卿がいらっしゃった。
む。なるほど、謁見室的な何かなのねこのお部屋は。
まるで汚いものをさわるかのように顔をしかめていた、私の服を掴んでいた死喰い人さんが私を卿の前に突き飛ばし、さっさと部屋から出て行った。あはは後で覚えていやがれ。
「あ、あの、えっと、何かご用でも、おありでしょうか?」
おそるおそるといった風に、カタコトだけど頑張って問いかけてみる。
「……この屋敷から逃げようとしたのだろう?」
「え? いえ、あの、ちょっと卿を探そうかなと、思って……」
逃げようとなんてして無いですよ。
卿の目を見てはっきりと言い放つ。またこの人は何か勘違いしてるの? 更年期もいい加減にしてほしい。それでも帝王ですか卿!
「……そうか。ならいい」
「ん? あ、はい」
ひっかかる事もある気がするけど、卿がいいなら良いや。
「あ、それでですねその、なんていうか……あー……」
なんと説明したらいいものか。
いいえfist nameここは一つ、どストレートに行くのよ。
「私、未来から来ました。この世界ではアテがないので、卿に有益な情報あげますですから、衣食住面倒見てくださいなのです!」
「…………」
顔を引きつらせぴたりと一時停止する卿。ちょっと可愛いです。
でも今はとりあえず返答してほしいかなあ。どきどき。
「…………………わかった。俺様がお前を囲ってやろう……ただし、」
なんだか神妙なお顔で一拍置いたあと、
「俺様の目の届く所に居ろ。でなければ殺す」
闇の帝王らしいな、とおもいました。
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