なんだかとても疲労を感じてベッドに埋もれてみたけれど、そのまま眠れる訳がないです。
それに、よくよく考えてみたらここがどこなのかわからない。さっきまで走り回ってたお屋敷らしいけど。

頬を何度も何度もつねってみたけれど、どうやら夢ではないみたい。
と、いうことは、本当にトリップしてしまった、という事。


身体中には傷、豪華絢爛なお部屋に一人、それと魔法使い。

知的好奇心旺盛な私がすべき事は一つ。


「よっこらしょういち、くん」


身体の傷は少し痛むものの、丁寧な手当てが施されている為、まあまあ動ける。
多分、さっきの人がしてくれたのでしょう。
……あれ。


「もしやあの人卿?」


紅い瞳に痛い一人称、黒髪アンド眉目秀麗。
条件は一致します。

……ま、まさか卿に会えちゃうだなんて……!
ああ、さっきのうちにサイン貰っておけばよかった。握手してもらえばよかった。
制服のシャツの後ろにサインしてもらえないかな。友達に自慢します。


と、制服といえば鞄はどこへ。
飛び降りた際、抱えながら落ちたはずだけど、卿拾ってくれてたりしないでしょうか……。


「わ、あった」


豪華な天蓋ベッドの横の、上品な木製テーブルの上に所在無げに乗るそれ。
手にとりチャックを開けてみると、ちゃんと中身も入っていた。
とりあえず本能的に携帯を開いてみる。


電源は入ったままなのだけど、電池残量があと二つしか無い。
で、やっぱし圏外。まあ、当たり前ですよねー。
節約のため電源を落とし、鞄を元に戻した。


「さてこれからどういたしましょう」


トリップしたっていっても、どうやって帰ればいいんだろう。
大好きなハリポタの世界に来れたはいいけど、学校やらバイトやらがあるし、……まさかこっちに居る間、向こうではサボってるって事になっちゃうのかな。うわやばい。
ていうかまず、行方不明扱いになってるかも。
友達も家族も居るし、私が居なかったら誰がおばさんの家事を手伝うというの。おじさんはぎっくり腰だから論外だよ。



む。
意味の無い事を考えていたって仕方がない。
とりあえず王道的夢小説みたいな感じで、ここに居候させてもらえないかな。私はこの世界では無一文だし、無力で非力で行くあても無い訳ですしおすし。

うん、卿にあえたら頼んでみましょ!



この部屋を出て早速卿を探しに行きたいところ……だけど、ここのお屋敷は広いし迷うだろうし、以前こんにちはした不審者さんにあったらまずい。

じっとしておくのが吉よね、と好奇心を抑えつけようとする、けど。
こんなネズミと夢の国以上に面白い出来事を目の前にして大人しくなんて若い私が出来るはずもなく。


「ちょっとだけ、ちょっとだけなのです」


ぞくぞくとした後ろめたさを背負いながらそれでも尚、扉を開けました。













この時既に物語は始まっているのだと私は勘違いをしていました。
でも、今思えばそうやっぱり、とてもばかげている事に、始まってなどはいなかったのです。
スタートラインすらこの頃の私は知らない。
  


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