今にも凍えてしまいそうな、クリスマスの朝。


「ヴォルデモートさん、絶対、絶対早く帰ってきて下さいよ! 約束ですよ!」
「分かったと言っているだろう。何度も言うな、」

必死に訴える私を、ヴォルデモートさんはうるさそうに一瞥した。
先程から幾度も同じ事を言っているのだから、うんざりするのも分かる。
けれど、今日だけは何が何でも、雪が降ろうが雨が降ろうが雷が落ちようが、絶対に、早く帰ってきて欲しい理由があるのだから、是非ともここは神様のような寛大な心で許して頂きたい。なんて、ヴォルデモートさんに頼んでも無理でしょうけれど。

彼の服の裾を引っ張っていた手をようやく放して、にっこり笑って念を押す。

「いってらっしゃいです。本当に、早く帰ってきて下さいね」
「ああ、」


そうしてヴォルデモートさんは出かけていった。
さて、私も準備を始めなければ。







とりあえず自室に戻って、クリスマスカードを用意する。
日本じゃあまり見ないけれど、イギリスでは親しい者とクリスマスにこのカードを交換し合うのだと、ベラさんが教えて下さった。
彼女と一緒に、わざわざダイアゴン横丁に行って買ったクリスマスカード。
や、正確に言うと、買って頂いたのだけれど。
申し訳ないから断ろうとしたのだけれど、自分の欲望と彼女に押し切られてしまった。情けない私。
けれど使える物は存分に使いたいと思います。せっかく買って頂きましたし。

サンタクロースやツリーが描かれた、可愛らしいクリスマスカード。
綺麗な字ではないけれど、なるべく丁寧に文字を書く。
まず初めに、ベラさんへ。そしてヴォルデモートさん。

「あとは……」

一瞬、つい先日決別してしまった人の顔が思い浮かんだ。
しかし、首を横に振って、羽根ペンを置く。

私が彼にクリスマスカードを送ったところで、喜んで下さる訳が無い。
むしろ、あの綺麗な顔を顰めるだろう。

「やめておきましょう、か」

まだまだ枚数の余ったクリスマスカードを見て、呟いた。

知り合いが少ないのも、もう慣れた。
このくらい、何とも無い。


そうして少しぼうっとしていると、こつん、と硬い音が窓のほうから聞こえた。
ぱっと顔を上げると、立派な梟が窓枠に止まっているのが見える。
小刻みに羽を震わせて、少し寒そうだ。
慌てて立ち上がり、窓へと駆け寄り開けてやる。
その途端、梟と共にびゅうっと、冷たい空気がいっきに窓から入り込んできて、私も身体を震わせる。
これ以上寒くならないうちに、手早く窓を閉めた。
振り返ると、冷気と共に入ってきた梟は羽音を響かせ、テーブルに見事な着地。
そのくちばしには、白い便箋が咥えられている。
それを見て、つい頬を緩ませた。

「ご苦労様でした」

そう言って便箋を受け取り、指先で梟の頭を撫でた。
寒い中ここまでやってきた労いをしようと、暖かいミルクを差し出すと、梟は便箋を放り出して元気よく飲み始めた。

その光景にくすくす笑いながら、ペーパーナイフで便箋を切り、中に入っていたクリスマスカードを開く。
彼女らしい、荘厳なデザインのカード。真ん中には綺麗な字で、『wishing you a Merry Christmas and a Happy New Year』、と書かれている。
一番下にはベラさんのフルネーム。
まあ、お名前を書かれなくても、私にクリスマスカードを送る人は彼女しか居ないのだけれど。

ひとしきり嬉しさをかみ締めて、私も便箋にカードを入れて封をした。
さて、この梟さんにもう一仕事。
ついさっき書き終えたばかりのクリスマスカードを運んでもらわなくては。
しかし私も鬼ではないので、とりあえず梟さんがミルクを飲み、冷えた身体が暖たまるまで待つ事にする。

そうして椅子に座りなおした時、


こつん。


窓ガラスが叩かれる音。
何だろうと見やると、大きな梟が一匹、窓枠にとまっていた。
しかも、くちばしには一通の便箋。

「……?」

おかしい。
ベラさんからのクリスマスカードはもう届いたというのに、どうしてだろう。

戸惑いながらも立ち上がり、窓に近づいて先程と同じように開けた。
するとその梟は中には入らず、ずいっとくちばしに咥えた便箋を差し出してくる。
寒さに震えながら、恐る恐るそれを受け取った。
途端、梟はぱっと踵をかえして白い銀世界に飛び立っていく。

「え、あ、待って……」

慌てて窓から身体を乗り出すも、梟はたちまち遠くなっていった。
諦めて、窓を閉める。
首を傾げながらも便箋を開けると、

「クリスマスカード……」

一体どうして。どこの誰が?

驚きながらも、二つ折にされたそれを開く。
そこにはシンプルに、『Merry Christmas』、とだけ書かれてある。
滑らかな美しい字。

「あれ……?」

ふと、カードの隅に気がついた。
そこには、L・Mと書かれている。
きっとイニシャルなのだろう。

「L・M……」

一人だけ思いつく人物が居る。
けれど、まさか。
あり得ない。

でも、彼以外に、私の事を知っている、R・Mというイニシャルの人なんて。

「まさか……あっ」

L・Mと書かれたカードの端が、突然燃え始める。
驚いてぱっと手を放すと、床に落ちたそれはすぐさま燃え尽きて、塵も残さず消えてしまった。


まさか、本当に、


「ルシウスさん……?」


呆然としながら呟く私に、ミルクを飲んでいた梟がなぜかホー、と合いの手を入れた。

  


[main] [TOP]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -