「うーん、どうしましょうか……」

うんうん唸りながら、来るべき聖戦……もといクリスマスの日に備え、計画を練っていた。
先日自信たっぷりに「クリスマスを祝いましょう!」と宣言したはいいけれど、ヴォルデモートさんは中々首を縦に振って下さらなかった。「年中ニートみたいなものなんですから別にいいじゃないですか」と説得しようと試みたけれどなぜか殴られてしまいましたし。お年頃ってやつなのでしょうか。難しいね。


とりあえず。


「クリスマスの日くらい、何か飾り付けてもいいですよね……いっつも殺風景ですし……でも全部のお部屋にするのは大変ですから、嫌がらせでヴォルデモートさんの部屋だけ飾りつけちゃおう。大きなツリーとか。あとは……やっぱりプレゼントとか」


日頃の感謝とか恨みつらみ諸々を込めて、クリスマスプレゼント。うん、いいかも。
何を贈ろうかな。やっぱりヴォルデモートさんが喜ぶものがいいよね。だとしたら、こう、実用的なもの?魔術具とか。貴重な書物とか。
や、プレゼントは物よりも大事なものだってあるけれど……ヴォルデモートさんの事だから、あんまり喜ばなさそうですね……思いつかないし。
やっぱり何か買うしか……あ。


「わ、私お金持ってないです……!」


そういえばそうでしたよすっかり忘れてましたよ!
どうするのこれ。かなり前途多難。でも、ここで諦める訳には……諦めたら試合終了……


「何をぶつぶつ言ってるんだい、気味が悪い子だね……」
「わあっ!」


高飛車な口調の声が突然背後から聞こえ、驚いて飛び上がる。
しかし今や慣れ親しんだその声に、私は笑って後ろを振り返った。


「ベラさん!」
「ああ、大声を出すんじゃないよ。騒がしい」


そう言って、彼女は整った顔を綺麗に顰めた。
……ヴォルデモートさんもそうだけれど、美形って本当何しても絵になるんだから羨ましいです。
私も願うことならもうちょっと……じゃなくて。

一体どうしてここに……あ、そういえば、お茶をする約束をしていたんだっけ。

「ごめんなさい、今お茶の用意します。何をお飲みになりますか?」
「アンタに任せるよ。ああでも、」
「甘さは控えめ、ですよね」

にっこりと笑ってみせる。
と、ベラさんが少し照れくさそうに顔を顰めた。
何回かお茶の時間を共にしている間に、彼女の好みも少し分かるようになってきた。
ミルクティーはあんまり飲まないこと、色や香りよりも味わい深いものを好むこと。

得意げに杖を振ってお茶を淹れ、ティーカップを彼女に渡す。
たちまち、紅茶の香ばしい香りが辺りに広がった。覚えたての頃は、苦すぎたり薄すぎたり香りがまったく引き立っていなかったりと散々失敗したものの、今やすっかり手馴れたものだと、我ながら思う。

さて、お茶菓子は何を選ぼうかと迷っていると、今度はベラさんが杖を取り出した。
彼女の薄い唇から小さく呪文が紡がれると、空っぽだった食器に小麦色のラスクと可愛らしいマドレーヌが飛び出してきた。

「わあ……すごいです!」

食欲をそそるそのお菓子に、顔が綻ばせて言うと、彼女はやはり照れくさそうに「自分も同じ事をやってるじゃないか」とぶつぶつ言って、誤魔化すように紅茶を飲んだ。
微笑ましい空気にニコニコしながら、私も紅茶を味わい、舌鼓を打つ。

「そうだ、ベラさんはクリスマスってどう過ごされるんですか? やっぱりパーティーとか……」
「パーティーなんかする訳ないさ。普段と違うメニューのコースを食べるだけの詰まらない日だね」
「そ、そうですか……」

さも何でもない事のように仰られてますが、物凄く豪華なお食事が目に浮かびます。ごくり。

「アンタはどうする気だい? 一人で過ごすのかい?」

少し意地悪に微笑みながら、彼女はラスクに手を伸ばした。
私はといえば、痛い所を突かれてしまい、どうとも言えず黙り込んでしまう。


だって、クリスマスがどういった日になるか、すべてはヴォルデモートさん次第なのだから。

私がいくら派手に騒いだところで、彼が居なきゃ面白くもない。
何より、ヴォルデモートさんと祝いたい。

だってほら、クリスマスって祝うものでしょう。


「出来れば一人は遠慮したいんですけれど……うーん……」
「何だったらウチに来るかい?」
「えっ!」
「冗談に決まってるだろ、アンタなんか呼んだらこっちはそれこそ冗談じゃないよ」
「あ、はい……」


び、びっくりした。
ベラさんも、冗談とか言ったりするんですね。わりと意外。


「あ、そうだ。クリスマスプレゼントって、例えばどんな物を渡せばいいんでしょうか」
「そうだねえ……」
「でもって私、お金も持ってなくって」
「おや、それじゃあ何も買えないじゃないか」
「そうなんです……もうどうしようかと」
「まあ、諦めるしかないだろうね」
「そ、そんな……」


きっぱりすっぱり見捨てられてしまった。けれどまあ彼女らしい、としょんぼり肩を落としながら思う。
確かに、一文無しじゃ何も出来ない。
はあ、と深く溜息を吐いて俯く。
一瞬、食べかけのお菓子が目に入り、何かが閃いた。


「お菓子……」

そうだ、無いなら作ればいいじゃない!


何も買えないけれど、その代わりに。

お菓子を作って、渡してみよう。

素人の私が作る物だから多少不安はあるけれど……それでも、経験が全く無いという訳じゃない。
レシピ通りにやれば、私にも美味しい物は作れるはず。

さあ、そうと決まれば。


「ベラさん! 手伝ってください!」
「はあ?」


かくして、協力な助っ人を得つつ着々とクリスマスへの準備を進めて行くのだった。


  


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