「……え?」

目が覚めて、まず目に入ったのはわりと眉目秀麗な顔。うそです、かなり美形。
そんな男の人が私の顔を覗き込んでいた。ので、目を覚ました私は必然的に視線を交わすことになる。

少し眉間に皺を寄せて、それからよくできた顔の中でもひときわ目立つ紅い色の瞳。
見るだけでああ、さらさらしてるんだろうなあと分かる綺麗な黒の髪。

どうやら私はベッドに横たわっているらしく、身体を起こしていないのであいにくそれしか見えないのだけど、きっとスタイルもいいのでしょうね、このお方は。同じ人間としてうらやましいですよ。



…………あれれのれ。そういえば私飛び降りたはずでは。
まだ夢の中なの?何それ私ってばどんだけですか。鈍感にも程が。


「…………」
「…………あの(何かしゃべってほしい)」


ひたすら私の顔を眺める青年(仮)。
視線がいたいです何かしゃべれよおおと思ったところで、つい、と顔をあげてはるか上から私を見下ろした。
……この人背が高いのね。黒髪だけど顔立ちが西洋の人みたいだし、外国人なのかも。


「具合はどうだ」
「………………え? なにがぁあ痛っ」


いきなり声をかけられ、ワンテンポ遅れながらもびくりと身体を跳ね上がらせると、身体中がずきずき痛んでいることにやっと気がついた。
顔をしかめて自分の身体を見下ろしてみるけど、やわらかい白の羽毛布団をかけられていて、傷は見えない。


ま、まさか。
さっきの夢の続き、とかそういう感じのアレですか。
え、ナイわ。飛び降りまでしたのに夢から覚めれなかったとかなんなのよー。
とすると、この人が私を助けてくれたのでしょう。


ああそういえば、飛び降りた直後、真下に人が居て、ぶつかりそうになって……。
そのぶつかりそうになった人がこの人だったかも。落下した時は勢いが良すぎてよく見えなかったけど、どことなく似てる気が、しますね。



「ぁ、あの、どうもありがとう、ございましたです……あなたが助けてくれたんですよね」
「…………何?」


あらやだこの人声もイケメン。今まで気づかなかったけれど。
イケメンさんに助けられるなんて夢みたいだわぁ。あ、これ夢でした。
や、でも、何?なんていわれても困るのだけども、私はお礼言っただけなのに。

とりあえず自己紹介してみましょうか。日本人は礼儀正しいのが売りなのだからね。あと陰湿。


「初めまして、私、fist nameて言います、fist name・family name……花の15歳! で、好きなお菓子はチョコとあと、」
「待て。今何と言った」
「ほ? え、チョコレート……」
「その前だ。……初めまして?」
「え、何かおかしいですか?」

私とあなたは普通に初対面ですけど……。なんだか変な人です。
……あれ。そういえば何で言葉通じてるの。
もしかして、この人日本語がしゃべれるのかな。私英語なんてしゃべれないもの。
すごいなあ。バイリンガルとか、ちょっと憧れる。

「なぜ…………もしかして、覚えていないと……?」
「ほへ? 覚えてないって何……え、ていうか大丈夫ですか?」

頭とか頭とか頭とか。
って頭しかないじゃない。
もしかしてこの人、この歳で更年期障害?
な、なんてかわいそうなの。近年まれに見る残念なイケメンだわ……。

「……なぜ覚えていない。忘却呪文でもかけられたのか? ……いや、お前の場合俺様をからかっているんだろう?」
「え、や、あの、一体何のお話をなさっているのやら……皆目検討がつかないのですけども」
「俺様に嘘をつくな……!」

いきなり声を荒げられ、驚きに両肩をびくりと震わせる。
おそるおそる見上げると、まるで憎しみを込めたかのように光る、紅い瞳。
ななななんなの、この人本気で残念なイケメンなんですけど、ていうか俺様っていう一人称は今時流行らないかと思いますですよー!
そしてイケメンさん、何を怒っていらっしゃるのかお顔が超……怖い……!
額に皺寄せすぎですよ。せっかくいい顔してらっしゃるのに痕が残ったら大変ですよー。

「今になって、忘れるなど、そんな事……そんな事は、俺様は許さん」

心底苛々したように、怒りを搾り出すような、わりと悲痛な声。
……どうやらなにか変な勘違いでもしてるみたい。

「え、えっと、よく分かりませんが人違い? なのではないかと……」
「…………」

……綺麗に顔をしかめたまま黙り込んでしまった。
本当に大丈夫なの、この人。
しいん、という音が聞こえそうなほどの沈黙が痛い。
さあどうやってこの状況を回避しましょうか……。
なんて頭を捻っていると、

「……fist name、」
「え? ちょ、あ……」

ぐい。
いささか強引に顔をあげられ、強制的に目をあわす事になる。
額に皺が寄っているのはさっきと変わらない。
けど、さっきより悲痛な表情に見えるのは一体どうしてなのでしょう。
細められた瞳に、目を丸くして見上げている私が映る。
……ていうかどうして私の名前を知ってらっしゃる。
ひたすらに真っ直ぐと射抜かれて、瞳を逸らして逃げることさえも出来ない。

「……」

ただならぬ雰囲気にどうしても何も言えずに、お互い唯無言で見つめ合う。
とりあえず離してほしい。切実に。

「あ、あの」
そろそろ抵抗してみようか、と思い始めた時に、まるでタイミングを読んだかのようにぱっ、と離される。
そのまま彼は、こちらを見向きもせずに部屋を出てしまった。

「……い」

一体何なのあの人……!
我に返ってみると顔が熱くなったり身体の傷が痛みだしたりで、とりあえず私はやわらかいベッドに、現実逃避するように倒れこんだ。

  


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