もっと力が欲しい。
それこそ、誰も私を傷つける事が出来ない程に。
「今のご時世何があるか分かりませんですしそれにほら私ってわりと美少女じゃないですかだからいつ襲われるか分からない備えあれば憂いなし! そうでしょルシウスさん!」
ばん、と勢いよく本を閉じて、お茶の準備をしているルシウスさんを真剣な眼差しで見上げた。
私はいたって本気だというのに、また何か言い出したよコイツ、とでも言いたげな顔をして、「はあ…………」と深い溜め息をつきながら、そのまま作業に戻った。失礼!
「何ですかそのお顔は、そのノーリアクションはっ」
「……では聞きますが今度は一体何をしでかすおつもりで?」
「し、しでかすだなんてヒドイ。私はただ魔法の勉強したいなって思っただけなのに!」
「……たかがマグルの癖に」
彼はこの頃、どんなに失礼な事を言っても私がヴォルデモートさんに言い付ける事はしないのだと悟りそれからは、こんな感じの憎まれ口を叩いてくるようになった。
私としてはすこし嬉しい。
以前のような冷戦状態よりは、ずっとマシだと思うもの。
「そうなのです、たかがマグルだから魔法の勉強を頑張るのです。魔力も普通、知識も皆無、だからこそ。……で、ゆくゆくは誰にもそんな口を聞けなくしてやるのですよ。私は、誰より強くなる」
ちょっぴり自己陶酔しつつ頬を緩ませながら、この世界に来てから秘めていた野望を初めて口にする。
ルシウスさんはそんな私を見て驚いているようで、目を丸くしたまま静止している。
仕方ない。
一端のマグルに過ぎない私がそんな大それた事を言っているのだから。
でも今私が言ったことに嘘偽りなど、無い。
「……そんな事、出来る訳が無いでしょう。現実を見てください」
「見えませーん」
頭の中で再生する某AA。
現実は見るものではありません。目をそらすものですキリッ。
「だって、せっかく魔法が使えるのですよ……」
そりゃ、無謀な思惑だって分かってはいる。
けど……。
「……いい事を思いついた。ルシウスさん私に魔法教えてください」
がちゃ、とルシウスさんがティーカップを倒す音。
そんなに驚く事でしょうか。
「……は? 一体何を仰って……」
「だから、魔法を教えてください」
何度も言わせないで欲しい。
早く魔法教えて下さいよとうんざりする私と裏腹に、何言ってんだコイツ、みたいな、何とも言えない顔をして私を凝視する、ルシウスさん。
そんなに驚く事……?
「何故私がそんな事をしなければならないのですか」
「今ここに居るのはルシウスさんだけだからです」
「…………大体私は……忘れたのですか、」
貴方を殺そうとした事を。
深刻そうな表情で、声を潜めながら、苦々しそうに彼は呟いた。
どうやら大分気にしている、らしい。
「そんなに、気負わなくていいと思いますよ。それにルシウスさんは何もしなかったじゃないですかー」
床にたたきつけた以外は。
あの後魔法で治療して頂いたし、プラマイゼロです、とにっこりしてみせる。
未だに顔をしかめている彼は、貴方はよく分からないと呟いて、それから、だんまりになってしまった。
一体何を考えているのか。
まあそんな事どうでもいいんですけどね私にとっては。
今の私にとって重要なのは魔法を教えてもらえるのかどうかですしおすし。
「それでですね、この辺……」
先ほど閉じたばかりの呪文集を再度手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
あった、これだ。
「プロテゴ、プロテゴ・トタラム、プロテゴ・ホリビリス」
何回やってもどんな本を読んでも、これだけはずっと成功しなくて、すごく困っていた。
ヴォルデモートさんに聞こうと思ったら運悪く外出中だったし、だからルシウスさんが居てよかった。
「この呪文、便利ですよね。色んな攻撃呪文を防げるし」
肝心の許されざる呪文は無理だけど。
呪文を途中で終わらせるフィニートも優秀だと思うけれど、私的にはこっちのほうが面白い。
バリアを出すとか、それなんてゲーム?みたいな。
今までRPGなどのゲームでは必ず魔法使いを選んでた私が通りますよ!
やっぱり、魔法はいいよね。
「その呪文は確か上級呪文集に載っていたものでは……いつの間にそこまで……」
「あー……ヴォルデモートさんにたくさん教えて貰って…………キラッ!
誤魔化しようがないので仕方なく、某銀河のアイドルのポーズなどをして、茶化してみる……けど……すごく怒られそう。
我が君に魔法を教えてもらうなんてズルイぞ!とか。
「ルシウスさん?」
「fist name様は……何故魔法を使いたいと思うのですか?」
「え、」
「貴方なら魔法を覚えなくとも、この屋敷に居れば安全でしょう、我が君が、…………」
そこまで言って、彼は口を噤んだ。
多分まだ、認めたくないのでしょう。
マグルの私がヴォルデモートさんになぜか大事にされていること。
……まあ、無理もないと、思うけれど。
当事者である私だって未だに理由が分からないのだから。
異世界から来たからってだけでは無いような気もするし。
私の答えを待っているのか、じっと見つめてくる彼に言い放つ。
「私は魔法が好きなんです」
なぜだなんて言われても困る。
「浮遊呪文も癒しの呪文も失神呪文も呪いも許されざる呪文ですら、」
私の思いはシンプルかつ単純で、
「私はとても好きだし、使えるようになりたいと思います」
それだけなのだから。
そう、特に深い意味なんて無い。
この世界に来て魔法というものがあってそれを使う力があるなら学ぶ。
私が息をするのと同じように。
それに意味や理由など、要らない。
面倒くさがりな私は、何も考えずに呪文を唱えて杖を振る。
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