「ウィンガーディアムレヴィオーサ!」

浮かべ、浮かべ。
箒の練習でもないのに、そう、強く念じる。
けれど目の前の本はぴくりともせず、浮かぶなんてもってのほか。
……何回も挑戦しているのに、さっぱり上手くいかない。
やっぱり、たった一人で練習しようなんて考えが甘かったのかもしれない。

せめて、誰か魔法の練習に付き合ってくれたら……。
ヴォルデモートさんとか、ルシウスさんとか、お姉様とか、ヴォルデモートさんとかヴォルデモートさんとか。


ってヴォルデモートさん多いよ私!
でも仕方ない。だって私、この世界に来る前は、夢小説とか読みながらヴォルデモートさんに魔法教えて貰いたい!とか妄想して、ニヤニヤしてたもの。


でも実際ヴォルデモートさんはとても多忙だから(主に世界征服で)、教えて下さいなんて言えない。ただでさえ居候させて頂いてる、というのに。
ひどい時は、一週間のうちほとんど会わないって事も珍しくはないですしね。


なので……ここはやっぱり、死喰い人さんに!
…………でも私ほとんど……というか全員に嫌われてるん、ですよねそういえば。忘れてたけど。

突然現れたマグルの小娘が敬愛してやまない我が君に寵愛されるなんて何かの間違いだ。

…………とか思っていらっしゃるのでしょうね。

こうしている間にも私を憎んで憎んで仕方がないって方が私の殺人計画とか企んでいらっしゃるかもしれない。
ヴォルデモートさんの所に居たら安全!とか馬鹿な事考えていたけれど、案外、明日の身も知れないかもです。


でもそこはホラ、超絶美少女!で頭がいい!私ですから、黙って殺されてしまう訳がない。
むしろ向かってくる相手を返り討ちにする覚悟で、私はこのお屋敷に居ないとね!
だってここは泣く子も黙る、闇陣営なのだもの。
こんなご時世ですし、自分の身は自分で、やっぱり守らないといけないのだわ。



「で、自分自身を守る為には、まずはこの浮遊呪文をマスターしないといけません、ね……」



よし、再トライ。
集中、集中。
びゅーん、ひょい。 びゅーん、ひょい、だからね、私。
心の中でそうつぶやき、呪文を唱えながら杖を振る。

「ウィンガーディアムレヴィオーサ!」


ぐぐっ、と、持ち上がり、

ぱたん。

とまた直ぐに落ちた。


……ショック。
でも、少し浮いた。浮いたよ!
小さな進歩だけれどそれが、ちょっと嬉しい。


杖を持ったまま喜んでいると、扉の向こうからコツ、コツ、耳ざわりのいい足音が聞こえた。
いったい、誰でしょ?
おやつの時間にはまだ早いしご飯なら昼食を頂いたばかり……だからルシウスさんではない、か。

だったら……お姉様とか?



だんだん近づいてくる足音を聞きながら首を傾げていると、キィ、扉の開く音がして、


「ヴォルデモートさんっ」
「やはり此処に居たか。あまりうろちょろするな」
「あはー、善処します……」


ヴォルデモートさんの目の下にはクマが出来ている。また徹夜だったのでしょうか。健康に悪いんだからー。

ていうか、

「ヴォルデモートさん、毎回思うのですけれど、どうして私の居場所がお分かりになるんですか」
「微量な魔力の残滓を辿ると大体分かる。お前の魔力は他と比べて異質だしな…………まあお前にはまだ分かるまい」
「へえ……そんな事出来るんですね」


なんて便利なの。
それなら、携帯のGPS機能とかいらなくなっちゃうね。

「ただし、私ほどの者でなければ不可能だろうが」
「…………ですよねー」


人が感心してる所に水をささないで貰いたい。

せっかく再チャレンジする、やる気出てきたというのに。



「早速魔法の練習か」
「ええ。せっかく買って頂きましたし、早く使いこなせるようになりたいですから!」


笑顔でそう答え、もう一度本に向き直り、「ウィンガーディアムレヴィオーサ!」ふわ…………ぼと。失敗である。
落ちる時の効果音が悲しい。


ヴォルデモートさんがいらっしゃるのに、恥ずかしいったらない。
でもちょっと浮いた嬉しい…………複雑。



「仕方ない、私が直々に教えてやろう」

…………え?
耳を疑う。
私、とうとう妄想のしすぎで幻聴すら聞こえるようになってしまったのでしょうか。



「で、も忙しいんじゃ」
「遠慮などする位ならさっさとしろ」
「えっあ、はいっ」



私の後ろに回ったヴォルデモートさんが突然、杖を握っている杖腕に手を添えた、ので、驚きに声が裏返ってしまった。

あああ、ダメダメ。
せっかく教えて貰っちゃうんだから、さっきの倍集中しなきゃ。

そうは思っても、あまり思考が回らない。
ヴォルデモートさんと密着してるせいだ!
わ、私にこんな乙女な部分があっただなんて。


「……何だ。緊張しているのか?」
「え、や、その……早く始めましょう!」


気にしてない風を装いながら気丈に振る舞おうとする、けど、お見通しのよう。
ヴォルデモートさんはとても愉快そうに笑いながら、私の首筋に顔を埋めて来……ってさっきよりくっついてまるで抱きすくめられてるような感じ、に……っ!

誰かに見られたら誤解されてしまいそう……お願い誰もこの部屋に来ないで今だけ!



「fist name……」
「っ!」


耳元で話さないで!

しかもなんだか掠れててすごく……えろてぃっくです……!
大人の魅力ってやつですねわかります。
でも困る!心臓が持ちません、ヴォルデモートさん……!


顔を真っ赤にして固まっていると、私を見て笑う気配がして、すっと離れて行って、私は解放された

マジで何がしたかったの!



「ヴォ、ヴォルデモートさ……」
「そもそも呪文が違う。ウィンガーディアム・レビオーサ、だ」
「えっ」


呪文を間違えるなんて、なんて初歩的なミスを……!
ショック。
ロンみたいに露骨に間違えていないのが、まだ救いようがある、…………と思いたい。
ていうか、さっきと全然雰囲気が違うけれど………………ああ、からかわれてた訳ですね……いちいちドギマギしちゃってかなり恥ずかしい……!




あー、……ともあれ呪文を間違えていただけなら、正確に唱えればいい、それだけよね。



「ウィンガーディアム・レビオーサ!」


ふわっ、と浮かびそのまま上昇…………せずに落ちる。
……失敗である。


「最後まで話を聞け、この馬鹿が……!」
「ス、スミマセン……」
「この程度の魔法で苦戦するな。恥ずべき事だ。いいか、お前は集中力が足りん。呪文を唱えた後に魔力を対象物以外に分散させるな。だから途中で落ちるのだ。分かったか?」
「は、はい……?」



よく分からない。
とりあえずもっと集中しろ、て事ですよね。
確かに私、呪文を唱える前は集中してたのに、唱えた後は力を抜いちゃってたかもしれない。
そのせいで、ふわふわぼとりなのね。
よし。



「ウィンガーディアム・レビオーサ!」


集中、集中。
魔力がどんな感じでどう流れてるのかとかは、分からないけれどとりあえずさっき言われた通り、本だけに意識を集中させた。

ふわ、と空中に浮く本。
ここからが重要。
そのまま、本を見つめ続ける。
ふわりふわり、不安定に、傾いたりしながらも、それはしっかり空中に浮いている。
……成、功?



「ヴォルデモートさん!」
「……まあ、慣れれば安定するようになるだろうな……よくやった、」


ヴォルデモートさんが、褒めてくれた!
貴重にも程が……



「と、言うとでも思ったか。この程度で喜ぶな。もっと上を目指せ。…………そうすれば、褒めてやらない事もない」

「は、はいっ……」




えっ、何これちょっとわかりにくいツンデレ……?
で、でも一応褒めてくれた、気がする。

ホラ、ヴォルデモートさんて引きこもりだからコミュニケーション能力低いんだよ……!
だから褒め方わからないとか。きっとそうだそうに違いない。


ヴォルデモートさんが、可愛く見えてきました。
闇の帝王なのにね、なんだかおかしい。


……ってニヤニヤしていたら、頭を叩かれた。
ヒドイし痛いよ!
なんだかすごくデジャヴるのですけど。
気のせい?

ま、でも、


「ヴォルデモートさん、教えて下さってありがとう御座いますっ!」「……礼などいらん」


無愛想に答えて、そっぽを向いた。


ヴォルデモートさんといい、お姉様といい、闇陣営ってもしかしてツンデレさんが多い?

…………オタクホイホイすぎます。


あっ、そうだ!



「私、この日を記念日にします! 初めて魔法が使えた日として……!」
「……そんなもの作ってどうする」


下らない、と一蹴するヴォルデモートさん。


「それは……今から考えます! とにかく記念日なのです! ヴォルデモートさん、祝ってくださいね、来年もその先も!」





魔法を使えた、正真正銘の魔女になれた日。
その大事な日に、ヴォルデモートさんが隣に居て下さることを、私は、願う。


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