「それでですね、じゃじゃーん! ちょっと見て下さいよこの、至高の輝きを……!」


腕をめいっぱい伸ばして、本日買ったばかりの杖を掲げる。
何本も吟味して、やっと決まった私の、私だけのマイ杖!
今日から毎日、たくさん使ってあげようと思います。
オリバンダーさんのお店に行った帰りにお姉様に頼んで、本屋さんで初級呪文書も買ってきましたしね!


初め本を買いたいと言ったら、杖の分のお金しか受け取ってないと言われたので、あとでヴォルデモートさんにツケとくからお姉様貸しておいてくれませんか、って言ったら、我が君にそんな事、とんでもない!と、とても怒られた。
お姉様ったらどんだけヴォルデモートさんのファンなの。


「……何だその、異質な杖は」
「え? あー……」


ヴォルデモートさんが本から顔を上げて、私の右手にあるマイ杖ちゃんを訝しげに見た。
不審に思うのも、まあ無理はない、かもしれない。
腕を目の高さまで下げて、改めて杖を見つめてみる。


まるで、真冬に降る雪のように白くて、シャーペンみたいに細い、また羽ペンと同じくらいに軽い、そんなマイ杖。
オリバンダーさんがおっしゃるには、色にしても長さ細さにしても、こんな杖は珍しいのだとか。大抵ブラウンやブラックが多く、薄い色はあまり見ないらしいし、ここまで細いものはほとんど前例がない、と。

で、そこまで語ったところでぱたりと黙ってしまったのでどうしたのかと思い、訪ねてみると、


『その杖は少々、いえ多々、判明していない点がどうにも多くて…………実は、製造者も、原料すら分かっていないのですよ、どうやら随分と昔からこの店にあるらしいという事だけは分かっているのだけれども、…………だがしかし、この杖は君を選んだ。ええ、きっと、何かの縁があるのでしょうな……うむ。どうか大切に使ってやってくれるかな、お嬢さん』


オリバンダーさんの話し方はゴチャゴチャしていておまけに、自己完結があるからよく分からないけれど、とにかくレア物って事はわかった。
製造者も原料も不明、いつから作られたかすらもわからない。
正直、すごくいいと思う。

異世界からやってきた私にぴったり!って。

この杖が私に何をもたらしてくれるのかは、まだ分からない。
でも、この子は私の力になってくれるはず。

私は、魔法を使いたい。
立派な、魔女になりたい。


ここに来てから、子供の頃に憧れていた、ファンタジックな世界を何度も思い出す。
空を飛べたら、時間が止まったら、一瞬で大人になれたら、ああ、魔法が使えたならば、世界はどんなにか今より輝くことだろう!
なんて無いものねだりが上手なの、私。
でも、退屈な毎日をただゆるりゆるりと過ごすにはいささか時間がもったいない。


幼い頃、御伽噺のお姫様や魔法使いを見て、あの頃はただ憧れるだけだった。
でも今は違う!
この世界でなら、私は魔法が使える。魔法使いになれる!



オリバンダーさんが言っていた。いずれ私は、奇想天外な事を成し遂げるだろうと。
それがどんな事なのか。
ただのお世辞、杖がちょっと特別だから、お客一人一人にああ言うのがオリバンダーさんの趣味、いやそれともただの当てずっぽうな予言モドキ?

それでも構わない。
オリバンダーさんの言ったことが当たらないとして、



「私が現実にしてしまえばいいんだからっ!」



完璧自分の世界に浸ってしまっていた私の叫びに、ヴォルデモートさんが心底うざってえ、みたいな顔をして片耳をふさいだ。あ、その仕草ちょっとかわいいですね。私の次くらいに。


「突然黙りこんだと思ったら、まったくお前は……」
「て、てへ……ごめんなさい、つい。えっと……ああ、私の杖がヘンだってお話でしたね、うん。それがまたすごいんですよ聞いてください!」
「ああ分かった聞いてやる、だから大声を出すな……頭に響く」
「え、大丈夫ですか。もしかして寝不足? 体調悪い? なら本読んでないでとっとと寝なきゃですよ! 無理イクナイ!」
「………………そう、だな」
「そうですよー…………えっ?」


あれこのお方今なんておっしゃった。
ソウダナ?え、うそ。
あのヴォルデモートさんが私の提案に頷いた……だと……!
や、やっぱり熱でもあるのかもしれない。


「ヴォルデモートさん……寒気とかありませんですか? ぼーっとするとか……頭痛以外に症状は……頭痛に効くお薬とか、魔法薬にありますか? 私初心者だから作るより買うほうが早いと思うので買ってきますあっ大丈夫ですお姉様と行くので! 大人しく寝てて下さいね!」
「fist name? おい、私は別に……病気などでは……、」


これは大変だ、一大事ですよ!
病気で床にふせってる闇の帝王だなんて、洒落にもならない!
お姉様、いらっしゃるでしょうか。
居なかったらルシウスさんとか、その辺り…………。この際ブラックさんでもいい。

ヴォルデモートさんて見た目はやたら若いけれど、やっぱり実年齢は……なんだし、こういう事には気をつけてあげたほうがいいのかもしれない。


待っててヴォルデモートさん、今すぐ私が楽にしてあげますから!














「fist name……」
そうだ、お前はいつだって、何があっても私の身を案じてくれるのだ。
こんな私の事などを。

  


[main] [TOP]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -