マズイ。非常にマズイ。
ズキズキなんて生易しいものじゃないお腹の痛みを耐えながら、走る。走る。走る。

片手で押さえた傷口からは、ぬるい血液がぼたぼたと零れ落ちていく。痛い、痛い。もしかしてもしかするとこれ、死亡フラグ?
ああ、何もかもあいつ等のせいだ。たぶん。

「……し、ね、ばいいのに」

顔をゆがめぎりりと唇を噛む。
殺意は無い。けど死んでほしい!
か弱い女の子にこんな事するなんて、重罪だよね。しかも私、こんなに美少女なんだよ。



ちょっと壮絶な痛みの中、フラッシュバックするさっきまでの光景。
大体私、不法侵入する気なんてこれっぽっちも無かった、のに。



何の変哲もない平日の朝。
徹夜でゲームをしたせいで寝坊して、いつも乗ってる電車に乗り遅れた。
なんとか一本次の電車に乗ったものの、やはり徹夜でゲームなんぞするもんじゃなく、あんのじょう電車の中で眠りこけてしまった。
……そこまでは良かったのに。



まどろみの中、ほのかに耳に届いた騒がしい声に目を覚ますと、変な人たちが私を囲んでいた。
とりあえず状況把握をと、周りを見渡せばそこは電車内でなく、シャンデリアっぽいもの、上等っぽい絨毯、などなどどうやら洋風の建物の中らしいということがわかった。

そうしている間に、変な人たちが私を指差してなにやらわめいているけれど、眠りから覚めたばかりの私はあまりにその出来事についていけなくて、至極マヌケなことにいつまでもぼんやりとしていた。
変な人たちが変な棒きれで、攻撃してくるまでは。




「……はぁ、はぁ……う、……も、つか、れた、」

生命の危機なのでわりと必死で逃げたけれど、他勢に無勢。分が悪く、しかも何やらビームっぽいものまで飛んでくる始末。
そんな鬼ごっこの途中で出来たお腹や四肢の切り傷がジクジク痛むけど、なけなしの根性で、逃げ回る。


でももうそれも限界みたい。私の鉄のプライドでもさすがに無理。だって普通の女の子だもの。いいえ、普通の美少女と言うべきかな。ホラ、私かわいいですしおすし。


一時的にはうまく撒いたようで、変な人たちの足音や怒鳴り声は遠い。
けど、カーペットに染み付いた血痕のせいですぐに見つかってしまうに違いない。

壁づたいにふらふらと歩きながら、ただ逃げ場所を探してさまよう。
ここは、まるで迷路みたいに広い。


「……ぁ、」


ふとこげ茶色に塗られた扉を見つける。
身体が悲鳴をまるきり無視して、なんとかその部屋までたどり着き、一応音を立てないようにして扉を閉め、同時に座り込んだ。


何で、何で私がこんなことに?
何が起きてるの。
ここは一体どこ?
そういえば、このお屋敷?……は、室内なのにとても寒い。
制服の上にコートとマフラーをつけてその上カイロまで装着しているというのに、出掛けよりも寒く感じた。あ、ちなみにカイロは貼るタイプです。


それに、あの変な人たちは棒きれから光線のようなものを出していたけど、まさか……。
や、でも、最近のおもちゃはすごいって聞くし、あれ、でも、あの人たちは刃物も何も、あの棒しか持ってなかったよ。
なのに、この傷は……。
思わずお腹の傷口に目を向けて、……そらした。
自分の身体だけど、これ、ぶっちゃけ、ものすごく縁起悪いわ。



やっぱりあの人たち、かの有名な児童書に出てくる?まほう、つかい。なのかな。
…………ん?

そうするとアレかな、これ、トリップみたいな?
や、でもあの、ナイよナイナイ、私みたいな普通の美少女(ココ重要)がトリップなんてない。トリップするのはもっとこう、みんなを救っちゃお☆とか○○、そんな事したらダメだよ!とかそんな感じの優しくて明るくてみんなに愛されちゃう健全な女の子がなるべきじゃない。個人的な意見なのだけど。
あ、とするとこれ



「ゆ、夢オチって、やつじゃ……! げほっゲホ、うぇ…………」

思わず小さめに叫んだら、口から赤い液体がこんにちはしてきた。
でもだいじょうぶ。とても痛いけどそれはほら、自分の奥底に眠るマゾヒストスイッチなどをオンしてみればこんなもの……!痛い。いろいろ痛い。傷もだけど私の存在とか。


そっかあ、トリップかあ。
やっぱり、夢小説の読みすぎでこんな夢見ちゃったのよね?
ごめんなさいおばさん、私明日からちゃんと勉強するね。たぶん。

でも、トリップした夢を見るくらいならもっとこう、親世代子世代創始者にもあいたかった。蛇寮メンバーはもちろんヴォルデモート卿にも。なにげに好きですよ、ハゲてるけど。

なんて、こんなこと考えてる場合じゃないのに。
どうしてだか、夢のくせして感覚だけはいやにリアル。
血は止まらないし、そのせいで血液が無くなっちゃってるのかもしれない、頭痛がひどい。
ああでも夢なら死んでも大丈夫だから、大丈夫ね。アレなんか日本語おかしい?まあいいや。

そんなポジティブシンキングな思考をしながら顔を上げると、アンティークっぽい、私の背丈ほどもある窓が目に入る。


その瞬間全てに魔がさした。


恥ずかしながらふさわしい言葉が見つからないので、中二病な語呂あわせを一つ。
まるで吸い寄せられるようにふらふらと窓際に縋り付き、縁に腰掛けて、窓の外を確認。
……ああ。
イケる。


この高さなら絶対死ねる!


突然思いついたグッドなアイディアに、頬がゆるみ口元が釣りあがるのが自分でもわかった。オーケー大丈夫、まだ正気ってことだよねたぶん。
高さ的には、四、五階ぐらいだから、普通の身体で飛び降りたら助かるかもしれない。
けど今の私はそれなりに重症なのでいっぱつで死ねちゃうだろう。


「っ……ハ、夢でも、他人に殺され、る、ぐらいなら」


私から死んでやる。
あんな変な人たちに、このかわいいかわいい私を殺させてたまるか。たとえ夢でもむかつくんだから!


そこまで決心したところで、都合よくいくつかの足音が聞こえ、すぐさま扉が勢いよく開いた。


「あ、げほっ……どうも、こんにちわ。お部屋お借りしてます」

黒いローブっぽいものを着た不審者さん達に取り囲まれてもなお、強がって微笑んで見せた私に一斉に棒きれ……じゃなくて杖。を、向けられる。
その途端待ってましたとばかりに窓の縁に足をかけ、えらそうにふんぞり返ってみせる。
それを不審者さん達は逃げようとしていると勘違いしたのか、何か言いながら私をせせら笑う。
でも言葉が英語っぽいので生憎通じない。

深呼吸して、恐怖のあまり震えだす身体を奮い立たせる。
これは夢。
なら、好き勝手してやるの。
誰も怒らないでしょう、ここは私の夢の世界なんだもの。


「はい皆様ご注目下さいませ! 不毛でだいぶ意味の無い鬼ごっこお疲れ様でしたでも、げほっ、そんなお遊びはやめにいたしましょうじゃありませんこと! だって、私かくれんぼのほうが好きなのです。あの、食うか食われるか? なドキドキ感。まあ鬼ごっこも同じ様な感じですけど、私的にはあの、タンマ! って言って逃げるセコイルールが大嫌いでして、とりあえず外よりは屋内でゲームとか、マンガとか読んでる方が多かったかなってげほっ、て、いう、……な、のでこの通り体力なんてものはなく……まあそんな事は関係ないのですけれども何が言いたいかというと私、勝負ならゲームでしたかったってことなのです、なんてどうでもいいですよねああ、そろそろ終わりましょうかご静聴ありがとうございました、それでは皆様!」


いきなりやかましくしゃべりだした私にあっけにとられている様子の不審者さん達。
ここぞとばかりに言葉をくぎって、この夢という狭い世界での最期の言葉を高らかに謳う。



「グッバイ」



窓の縁を思い切り蹴って、後ろ向きに落下。


にしても面白い世界だった起きたら友達に電話して話そう、って、あれあそこの黒いひとだれだろこのままいったらぶつか…………、





どしゃ。
     


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