「…………むぅ」


本を開いては顔を顰め棚に戻し、また本を手にとっては顔を顰めて、を幾度も繰り返す。
書いてある内容自体はおもしろい、のだけれど。

「いかんせん初心者向けの本がない……」

生まれてこの方学んだことなんて一度もない、魔法初心者な私。
この世界に来て、魔力があると言われたらもちろん、学ばずにはいられない!
とりあえず独学で初級魔法を試してみようと思ったけれど、杖がない。
仕方ないから、まずは基礎的な知識を学んでみようかな、とか思ったんです、けれど。
そこはやっぱり、ヴォルデモートさんのお屋敷。
小難しい本しかなくて、ビギナーな私にはちっともわからない。


「と、言うことでですね。……ダイアゴン横丁に行こうと、思います!」


しーん。
高らかに宣言したにも関わらず、本を見つめて終始無言、なヴォルデモートさん。
よほど集中しているのかそれとも、ただ面倒でスルーしているのか。

「ヴォルデモートさーん、聞こえてまーすかー」
「……何だ。邪魔をするな」
「じゃなくて、話を聞いてくださいよぅ……」

本を取り上げてみましょうか。
……や、それは怒られるなあ。
怒ったヴォルデモートさんはすごく怖いからさすがにやめておこう。
前回の件でものすごく懲りました。


でも、とりあえず今は話を聞いてほしい。そしてダイアゴン横丁に行きたい。
杖を買って本を買って、あわよくばアイスも食べたいのです。
いつもお屋敷に引きこもってばかりじゃ健康にも悪いですし、やはりここはなんとしてでも外出許可をいただきましょうそうしましょう。


「あのですね」
「ああ」
「私、ダイアゴン横丁に行きたいんですよ」
「そうか」
「ちょ聞いてます?」
「…………」
「ヴォルデモートさんっ!」
「邪魔をするなと言っただろう」


深くため息をつきながら、ヴォルデモートさんは心底ウザそうにしている。
ため息をつきたいのはこっちだというのに……。
あれですよ、この人、集中しすぎると周りが見えなくなっちゃうタイプなんじゃないでしょうか。
え、なにそれ可愛い……闇の帝王の癖して……!
じゃなくて。
確信は無いですけれど、多分、学生時代からこんな感じなのでは。


「私も邪魔をしたくないのは山々なのですけれど、」
「だったら今すぐ出て行け。部屋で大人しく昼寝でもしていろ」
「ちょ」


……今日はもう、ダイアゴン横丁に行くのは無理そうです。
これ以上怒らせるのはさすがにマズイと思うので、諦めて書斎を出る、と、


「あ」
「……あんた、マグルの」

廊下には、現役死喰い人であるベラトリックス・レストレンジさんがいらっしゃった。
旦那様のほうにはもうお会いしたけれど、ベラトリックスさんを生で見るのは初めてだ……!
なんだかちょっと興奮してきました。

少し癖のある黒いロングヘア、キツめだけれど美人さんなお顔、透き通った黒の、気の強そうな瞳、すらりと伸びる細い手足。

なんていうか、その、


「お姉様……!」
「………………はあ?」


私の発したお姉様という言葉に目を丸くしつつ、ちょっと引き気味なベラトリックスさん……いいえ、お姉様!
この人をお姉様と呼ばずして、誰を呼ぶというのでしょう。
ベラトリックスお姉様……、うん、ぴったり!


「あっあの、お姉様って呼ばせて頂けませんか! いいですか、いいですよねわあいありがとう御座いますおねーさまー!」

叫びながらぎゅうっと腰に抱きついてみると、ふわりと香るジャスミンの香り。
淑やかとはちょっと違う気もするけれど、気品のあるお姉様にこれまたぴったりですね。

「な……何してんだい! さっさと離れな!」
「あ、ごめんなさい、つい……」

もう少し、色々と堪能したかったんですけど。残念です。
びっくりしたのか恥ずかしかったのか、お姉様の白い肌が少し赤く染まっている。
……これは、女の子の私でもキュンときちゃうレベル!

ロドルファスさん、実はお姉様にだけデレデレなんじゃないでしょうか、こんなに可愛い奥さんなんですもの……!まあ所詮想像ですけれど。
でも万が一そうだったらおもしろいなあ。
ロドルファスさんは堅物というか、無表情で基本無口な人ですし。


「まったく、穢れた血の癖に生意気な小娘だね……いいかい、二度アタシに触るんじゃないよ!」
「えへ、善処しますー」

悪びれもなく、ちょこんと頭を下げてみる。
そんな私を見て、お姉様は安心したらしく、耳に心地いいヒールを鳴らしながら、ついでに私に触れられた所をはたきながら(って失礼ですよね)、書斎へと入っていった。


……ぶっちゃけ、善処する気なんてまったくもって無いんですけれど。
いい匂いでしたし。それに柔らかかったですしおすし。



バファリンは優しさ、日本人の半分は建前で出来ています。
これ、今回の教訓でよろしく。



    


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