「はーい! みんなのアイドルfist nameちゃんが、ただいま帰りましたでーすよー!」

だれも居ないホールで一人虚しく、盛大に叫んでみる。
当然帰ってくる声なんて無いけれど、まあ想定内のことなので、とりあえずヴォルデモートさんの所に行こう。
多分お部屋にいらっしゃるでしょう。








こんこん、と二回ノックをしてから、

「ヴォルデモートさーん!」

ばーん!
返事を待たずに、扉を開けた。
ちょっと非常識ではありますけれどそこはほら、皆のアイドルfist nameちゃんですし。
多少の失礼はね、スキンシップのうち、みたいな感じでよろしくお願いします。

「……fist name。ノックをしたら返事を待て、扉は静かに開けろ、五月蝿くするな」

羊皮紙から顔をあげて、煩わしそうに言った。
案の定、ヴォルデモートさんはデスクで絶賛お仕事タイムだったみたい。
じろりと睨まれる。美形さんが怒ると迫力があるというのは本当ですね超怖い。

「来週から気をつけます……で、本題かもん。ただいま帰りましたなのです! ちゃんとお使いしてきましたよっ」

褒めて!
と言わんばかりに、スキップしながらヴォルデモートさんの隣に行って、布袋を手渡した。
中身を確認したヴォルデモートさんが、面白そうに笑う。

「……まあ、一応条件は満たしたからな。褒めてやらない事も無い」

その、遥か上からの目線での発言はなんなんですか。
まあ、私は彼いわくペットらしいので、スルーしましょうか。私って優しい。

「てへっ! まあ何ていうか、この私に出来ない事なんて無い、というか! もっと褒めてくれてもいいのよ! ……あ、そういえば、お店に行ったらブラックさんに会いましたよ!…………あ、えー、これ綺麗ですね」


相変わらず嫌な感じの人でした、という言葉を飲み込んで、デスクにある、煌々ときらめく、水晶玉のような物に話題をそらした。

こういう事は、なんだか告げ口みたいでしたくありませんし。
よく分からないけれど、ブラックさんは悪い人ではないと思いますし……多分。
ただきっと不器用なだけなのでしょう。
あの家系は。


「……ブラック家の次男に、随分助けられたようだな」
「ほえ?」


いったい、どうしてそのことを。
そう目で訴えると、ヴォルデモートさんはデスクにある水晶玉ひと撫でして(なるほどそういう効果の魔法具なのですね)、私に視線を戻した。

氷のように冷たくて、燃えるように紅い双眸(そうぼう)を。


「まあ、確かにとっても助けられましたけれど……」


うつむいて、視線を泳がせる。
こういう、真剣なヴォルデモートさんの目は、直視出来ない。
それは私が、彼に対して何か後ろめたい事でもしているのか、ただ単に弱虫だからか、それとも…………。
いくら考えたって、私にはよく分からない。分かりたくもない。

だって。
知って後悔するくらいなら、最初から知らないほうがいいと、思う。
(知って後悔する事かどうかも私は知らないのに)


「fist name」
「……は、い」
「忘れるな。いつだろうと、どこだろうと、お前は俺様のものだ」


まるで、呪いのような言葉を吐いて、ヴォルデモートさんの手が私の髪をやさしく撫でる。

ここに住まわせて欲しいと言ったあの日からずっと疑問だった。

一体どうしてヴォルデモートさんは、私を縛ろうとするのかが。

ただの暇潰しか、支配欲を満たす為だけなのか、ヴォルデモートさんの心をのぞく事が出来ない私にははかりかねる。


それでも。
促されるままにぼんやりとしながら私がイエスと答えると、嬉しそうに彼は笑うのです。












透明なエゴイズムで殺してしまわないで
けれど、この人の笑顔が見れるなら、それでもいいかなって、思えた。
  


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