「父上? お知り合いなのですか?」


首をかしげて問う少年。……レギュラス君。
けれど、ブラックさんは終始私を睨んでいるまま。
言葉にするなら、そう、何故こんな所にこんな奴が居るんだ、とか、そんな感じ。
私だって、出来る事ならこんな所に来たくなかったし、こんな人にも会いたくはなかったですよーだ。
すべては不可抗力と主張します!

「こんにちは、ブラックさん。お久しぶりですね、ご機嫌いかが?」

とりあえず微笑んで挨拶とかしてみる。
ブラックさんの額の皺がより一層深くなったのは多分、見間違いじゃない。


……困りましたねえ。

他の死喰い人さん……例えばルシウスさんとかと比べて、ブラックさんへの接し方が、いまいちわからない。
ルシウスさんや他の死喰い人さんは全員私のことを良く思っていないけれど、ヴォルデモートさんに咎められるのを恐れてか、あからさまな態度をとったりはしない。
まあそれでも。
廊下を歩けば、死喰い人さんに会えば、射る様な視線がつきまとってくるんだけれど。
それ位なら何ともない。
私に危害を加えてこなければ、影で罵られていようと、殺したいほど憎まれていようと、どうだっていい。


でもブラックさんは、なんだか違う。
マグル出身で、穢れた血である私を憎いと思っている気持ちは他の人と変わらない。
けれどそういったものを表に出すのは、ブラックさん位しか居ない。
他の人は違うのに。
こんな風に、ストレートに来られたら、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。


「ええと、どうして私がここに居るか、でしたっけ。…………まあその。こみいった事情がありまして、どう説明したらよいのやら。うーん、結論から言うと、アレですほら、お買い物しに来たんです!」

腰に手を当ててふんぞり返って偉そうにしてみる。
そんな私を見て、レギュラス君はぽかん、と目を丸くして固まっていた。

「……ここはお前のような者が来ていい場所ではない。とっとと帰れ」
「はあ、まあそうなんですけどね。私もとっとと帰りたいんですけど……もちろん、ヴォルデモートさんのお屋敷に」

とりあえず、これ以上顔をつき合わせて腹の探りあいみたいな事していたって、意味が無い。
さっさと目当てのものを買って帰ろう。

「それじゃ、私、用事がありますものでー。ブラックさんはお買い物終わったのでしょう? お二人とも、またお会いしましょう」

最後に、ブラックさんへのあてつけにと、レギュラス君に向かってウインクしてみた。
…………なんだかとても殺気を感じるので、お店の奥へと退散しよう。








「すみませーん、こんにちはー」

ブラックさん達とお別れした後、店主さんを探しにお店の奥へと足を踏み入れた。
カウンターらしきものがかろうじて見えるけれど、やっぱりここも物がごった返している。リフォームとかすればいいのに。

天上から、まるでシャンデリアのように吊るされてる魔法具に見とれながら歩を進めていると、

「あわわっ」

がしゃん、と何かが崩れた音。
……どうやら、足にひっかけて何か倒してしまったみたい。
足元を見ると、透明に透き通った箱で、さっきの衝撃で取っ手が壊れてしまっている。
……やってしまった。
どうしよう……。絶対これ、売り物ですよね。
弁償ってことになるのかな。ヴォルデモートさんに預かったお金しか持ってないよどうしよう。


「おいお前、何やってんだ!」
「ぴぎゃっ」


直りそうにない箱を睨んでいると、突然、背後から声がかかった。
驚きと後ろめたさに肩をすくませながら、振り返る。

「あ…………」
「おいおい、それウチの商品じゃねえか。チッ……勘弁してくれよ」

ダークブラウンの長い髪を耳の後ろで縛った、目つきの鋭い、真っ黒なローブをまとった20代後半くらいの青年。
その人は、固まってる私から、奪うようにして箱を取り上げる。
目の高さまで持ち上げて眺めてから、取っ手が無い事に気づいて、彼はこちらを睨んだ。

「おい、お前」
「え、あ、……はい」
「これ壊したのお前か?」
「う、はい……すみません」
「壊れた取っ手の欠片はどこ行った」
「? ここにあります、……ほら」

そう言って、足元を指差してみる。
ホコリっぽい床の上にちらばる、取っ手だったもの。
それを見た彼は、二度目の舌打ちをした。

「これは壊れやすいんだ、扱いには気をつけてくれよ」

そんな物を床に置いとくなよ!
や、こんなに散らかってるのに足元をよく見て歩かなかった、私も悪いんですけど!

「す、すみません……」
「まあこれ位ならなんとかなるが……レパロ」

いつの間にか杖を出した彼が修復呪文を唱えると、あっという間に箱は元通りになった。

「……さて。お前か? さっきレギュラス・ブラックが言ってた、変な奴に追われてた子ってのは」
「は、はい」

そこまで説明してくれてたんですね、レギュラス……なんて優しい子。
もし私がお母さんだったらすごく可愛がってたろうなあ。

「仕方ねえな……家の近くまで送ってやろうか? 家はどこにある?」
「あ、いえ、その……私、買いたい物があって」
「買いたい物?」

ポケットから羊皮紙を出して、彼の目の前に広げて見せる。
それを眺めた後、

「お前、これに描いてある物って、これじゃねえのか」

そう言って、手の中にある、さっき彼が直したばかりの箱を持ち上げた。

「……あ、」

いまさらだけど、確かに、羊皮紙に描いてあるものと似てる。
デザインが違うから、全然気づかなかった。

「それを買いたいんです」
「こっちも商売だから、売るのは別にいいんだが……これ、高いぞ。大体お前みたいな子供が使うような代物じゃねえだろ」
「え、や、えーと、その……」

私が壊して、ヴォルデモートさんに脅されたから買いに来たんです、だからどうやって何に使うかなんて知りません。
とか、言えるはずが無い!
どう答えたものか、しどろもどろになって焦っていると、彼はふっと笑って、


「ま、それぞれ事情ってやつがあるもんな。詳しくは聞かねえさ」


ちょっと待ってろ、と言われ、箱を持ったままカウンターの中をごそごそと何かを探している彼の背中を、私はぼうっと見つめるしかなかった。
聞かないでくれるのはありがたいけれど、こんなに簡単でいいんでしょうか。


「そ、そんなに大雑把でいいんですか……」
「大雑把じゃねえ、適当と言え。この店がどこにあるか知ってるか嬢ちゃん」

む。嬢ちゃん、ときた。
新鮮すぎる。

「……ノクターン、」
「そ。悪がはびこる常夜の町、頼れるものは金と己だけ、ってな。まあ、これは単なる俺のポリシーだけどさ、ほら」

落とすなよ、と厚い布袋を渡される。
この中にさっきの箱が入ってるんだろう。
「おい、代金」
「あっ」
はっとしてポケットの中を探り、いそいで小さめの布袋を彼に渡した。


「これで足りますか?」
「ん……ああ、丁度かな。一人で帰れるのか?」
「子ども扱いしないでください……帰れますよ、さようならへんてこなお兄さん」




ポートキーであるチョーカーを握り締めて、目を閉じた。




   


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