さあ。
そんなこんなでやってきましたノクターン横丁。……に、入るちょっと前の細い路地。
さすがノクターンの入り口なだけあって、人一人居ないし、この間訪れたときと雰囲気はまったく変わらず、なんていうかこう、世界の果てって感じ。
マグルさんなんかは、この場に居るだけで気が滅入るんじゃないでしょうか。
あ、そういえば私もマグル……。


「それではfist name様、私はこれで。……精々、お気をつけ下さいませ」


意味ありげな微笑を浮かべると共に、ルシウスさんは姿現しをしてさっさと行ってしまった。
あ、……案内してくれたお礼、言いそびれた。
まあ、今度会った時でもいいでしょう。その時、また色々と話せばいいのですし。
問題は。

「生きて帰れるかどうかなのですよ……」

でも、ここでうずくまっているだけじゃどうしようもない。
このままじゃヴォルデモートさんのお家にも帰れない。

泣こうが喚こうが答えなんてものは、いつだって決まってる。

フードを被りなおして、怯えながらも足を進めた。







どくどくと、鼓動が早鐘を打つ。

フードを目深にかぶっているのでよく分からないけれど、周囲からとても視線を感じる。
ストレートに言うなら、「あいつカモにできんじゃねーの」とか、そんな感じの。

よくない視線。

まあね、私日本人だし、ましてやイギリス人の大人なんかと比べると、それはそれは悲しくなる位の差ですしね。
背格好からも、あきらかに女子供ってわかるもんね。
おまけにこんな所を一人で歩いているんだもの。
自分で言うのも何ですけれど、獲物以外の何者でもないね。

でも、だからって、

「来て五分も経たずに追い掛け回されるなんて思いもしませんでしたよ……っ!」

後ろが気になったけれど、振り返らずに、細い路地を走り続ける。
既に体力なんてものは尽きたし、出来ることなら今すぐ座って休みたい。
でもそんな事をしたらさっきの怪しい人に捕まるに決まってる。

「ああもうやだやだ帰りたい来るんじゃなかっ、ひゃわっ……!」
「わあっ! …………」

ちょうど角を曲がったところで、誰かとぶつかった。
走っていたため、冷たい石畳に尻餅をついてしまった。
お尻のあたりに痛みを感じながら顔をしかめていると、眼前にすっときれいな手が差し出された。
顔をあげると、やさしそうな黒髪の少年。

「えっ……」
「大丈夫ですか? すみません、よく見ていなかったので……」

少年に手をとられ、立たされる。
そのまま彼は、上着の内ポケットから杖を取り出して、ローブについた土ぼこりを綺麗にとってくれた。
突然の出来事にぽかんとしていると、乱暴な足音と私を探す怒号が聞こえてきて、びくりと肩をすくめた。
どうしよう。
捕まってしまうかも。
それどころかこの少年にまで迷惑が……!
焦る私を見て、少年は私の手をとり、そのままレンガの壁に向かって杖を向け、

「アパレシウム!」

レンガが動き出し、やっと人が通れるくらいになった穴に、あわてて飛び込んだ。




「はぁ……ここに居れば、安全ですから」

安堵のため息をついて、私ににっこりと笑いかける少年。

「あ、は、はい……どうもありがとう御座いました」
「いえ、気にしないで下さい……一つだけ確認しますが、追われていたんですよね?」
「は、はい」
「そうですか……危ない所でしたね。でも、安心して下さい。ここには僕の親も来てますから守ってくれますし、この店は顔見知りしか入れない事になっていますから」
「そ、そうですか」

ほ。
ひとまず、安心してもいいようだ。
顔見知りしか入れない、ということは、さっき手を繋げたのは、きっとここに私も入れるためだったのでしょう。
にしても、なんて優しい少年。見知らぬ私に、ここまでしてくれるなんて。
世の中にはこんなに優しい人が居るのですね。
私も見習います。明日から。


「登録していない人がいきなり入ってきて店主さんが驚いているでしょうから、僕は少し向こうに行っていますね。ここで待っててください」
「え、あ、はい」

いい人すぎる。だめだ真似できない。


一人だと妙にそわそわして、きょろきょろと辺りを見回してしまう。
少年の言ったとおり、ここはお店らしく、壁際にずらりと並べてある棚の中だけでも、商品らしき物であふれかえっていた。
……ん?
この棚、何だか見覚えがある。
おかしいですねえ私ノクターンのお店なんて………………あ。

「ここってヴォルデモートさんと来た……!」

絶対そうだ。
だって、棚以外にも商品に見覚えがあるもの!
それで、こっちの方に歩いていくと…………あった。

「タイムターナー……」

天上から吊るされているあの奇妙な飾りも、ついこの間見たものだし、一見アンティークなただの箱のようなこれも全部、見覚えがある。

あわててローブのポケットから、ヴォルデモートさんにもらった羊皮紙を取り出した。
お店までの地図と、私がぶつかって壊してしまった魔法具が描いてある。

「よかったあ……私ってなんて運がいいの!」

優しい人に助けてもらっちゃうし、偶然入ったこのお店が、目的地のお店だったなんて。
きっと、さっき怪しい人に襲われたのは、この為だったんだよ、きっと。
そうとなればあれくらい、怖くもなんともなくなってきた。あははざまあみろー。


そのまま商品を眺めていると、足音と話し声が近づいてくる。
片方はさっきの少年……と、なぜだか聞き覚えのあるテノール。
いやたしかこの声どこかで、

「fist name様……?」
「……あ」

振り返ると同時に、声をかけられ確信する。

「え、えーと、こんにちは…………ブラックさん」

これでもか、とまで顔をしかめて私を睨む、見た目だけは品のいい初老の紳士。
灰色の綺麗な目は少年……多分レギュラスだろうな、と同じ色。
けれどそこに宿すものはまったくもって違う。
この間お会いした時に、喧嘩ふっかけたまま逃げちゃったから、怒っているのも無理はないですけども。

「お前……なぜ貴方様がこんな所にいらっしゃるのですか」


お前、はとりあえず割愛するとして、その死ぬほど嫌そうな敬語はやめてもいいですよ、ブラックさん。



   


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