走っていて、角で男の人とぶつかるだなんてドラマチックだよね。
今ならばかばかしいと思うけど、幼い時は少し憧れていたような気も、する。
でも、誓って。
もうそんな事に憧れたりなんてしない。




「……もう二度と廊下走ったりしませんから、勘弁して下さいぃ……」

ぎりぎりと身体に巻きつくロープから離れようとするのを諦めて、にっこりと嘘純度100%の笑みを浮かべるヴォルデモートさんに許しを乞う。
王座のようなとても立派な椅子に足を組んで腰掛けながら、私を見下ろすヴォルデモートさん。
目を細めて笑っているのだけれど、怒っているオーラがぴりぴり伝わってきて、怖い。

事の起こりは少し前。

逃げたカエルチョコレートを追って廊下を走っていると、角でヴォルデモートさんにぶつかって、といより体当たりに近いけれどそれはまあ置いておきましょう。
で、結論から言いますと、ぶつかった衝撃でヴォルデモートさんの抱えてる魔法具が床に突撃し、壊れた。

硝子細工のように繊細な作りだったらしいそれは、清清しいほど、木っ端微塵になって。

「……」

これはやばいと踵を返そうとした途端、服の襟をつかまれインカーセラスで縛られ、今に至る。



「だからそのー、ごめんなさい。なんていうか、角で人にぶつかるなんて、思わなくって……」

怖くて、とてもヴォルデモートさんの目なんて見れない。
視線を右や左にそらしつつ、何度目かの謝罪を述べるけれど、中々許して貰えない。
ここまで怒るという事は、すっごく貴重なものだったんだろうなあ。

ああ、なんでカエルチョコレートなんて追いかけたのよ私のばか……!
でも、でもね、ついこの間まで庶民暮らしだったから、チョコレート一個でもさ、勿体無いなって思っちゃうんだよ。
そろそろここでの生活にも慣れなくちゃいけないというのに。

「fist name」

何も言えずに服の裾をいじっていた私の頭上から、不気味なほど優しげな声がとどく。
予想外に近くから聞こえた声に、ビクリと身体を揺らして、反射的に顔を上げた。

「……っ!」

いつの間にかすぐ目の前にヴォルデモートさんが居て、王座は空席。
片膝をついて、まるでどこぞの王子様のようなポーズをしている。
に、似合わない。

「な、ななんでしょう」

いきなりの事で焦る私に、先ほどと同じ声色でささやきながら、

「ノクターンで代わりの魔法具をとって来い。この間連れて行ってやった店だ。私は、使いも出来ない役立たずの家畜なぞいらん。……後は分かるな?」

この上ないほど残酷なことをおっしゃった。








せめて地図と護身用の武器をと泣きついて、杖とポートキー、羊皮紙を渡される。
ヴォルデモートさんのあの怖い顔を思い出して、ちょっと本気で家出を考えた。
  


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