ちょっと気になったのでヴォルデモートさんに今の暦を聞いてみた。
1975年。
ぶっきらぼうに、本に目を向けたままそう言われた。
ヴォルデモートさんは1926年生まれだから……と口に出したまま彼の年齢を数えていると、背後から本が飛んできて勢いよく頭に直撃した。
アイテテと頭を抑えながら後ろを向くと、いつの間に接近したのやら、真正面でヴォルデモートさんが鬼のような形相で睨んでた。こわいしひどい。


「か、可愛いレディーに向かって本を投げるなんて酷いです。紳士のやることじゃありませんです。謝罪を要求します!」
「……貴様、今何を数えていた……?」
「え、や、別に……」

貴方のお歳です。
なんて言えやしないわ!
だってヴォルデモートさんの顔がいつもの数倍怖い。死喰い人さん達と悪いこと企んでる時と同じくらいに怖い。
本ばっかりに夢中になって遊んでもらえないから、ほんの悪戯心でやってみたけど、まさかここまで怒るなんて思わなかった。
結構、歳、気にしてるのかな。

「……まったく。読書の邪魔をするな」
「だ、だって暇なのです!」
「本でも読んでいろ」
「さっきまでそうしてましたけど、そろそろ目が疲れました。ので、休憩したいと思います。もちろんヴォルデモートさんもいっしょに!」

にこりと笑って、テーブルに錯乱していた本を片付け始める。
そうだおやつの時間にしよう!
もうすぐ3時だし、ヴォルデモートさんの邪魔も出来た事だし、何しろ今日はお天気もいい!
少し埃っぽい窓を開けてカーテンを端っこに追いやると、陽が差して暗い部屋がとても明るくなった。たまにはいいと思う。
けど、ヴォルデモートさんは日陰に避難して不機嫌そうな顔をしていた。陽が苦手なのかな。まあ、なんて言われたって閉めないんだけど。

「閉めろ」
「嫌なのです。お茶会しましょう、ヴォルデモートさん。読書は休憩です。知ってますですか、暗いところで本を読むと目が悪くなるのですよ!」

にこにこ。
本をなかばめちゃくちゃに本棚に戻しつつ、なんとなく振り返って笑いかけてみる。
案の定、読書を邪魔されてすごく顔をしかめていたけど、今の私にとってはそれすら愉快の材料になる。

「ヴォルデモートさん、テーブル片付いたんでお茶とお菓子出して下さい! 私はアップルティーがいいのです! あ、それとお菓子はチョコクッキーが出てきてくれたら2倍嬉しいのですよ!」
「……30分。いや、10分だけだぞ」
「ちょ、え、みじかっ! 言い直す必要はなかったと思いますです!」
「じゅうぶんだ」

もっとお茶会しましょうよー、とごねてみるも彼は退かない。
頑固な性格なので、今粘ってみても無理だろうな。よし、10分経った時にもう一回ごねてみよう。
ヴォルデモートさんは少々不満な顔をしつつも、魔法でテーブルクロス、その次にお菓子とお茶を出してくれた。
私の希望通りのアップルティーとチョコクッキー。ヴォルデモートさんの分のコーヒー。
どちらもプロが作ったか淹れたかのように美味しそうで、店頭に並べてみてもおかしくない見た目。
しかもこれ、味もおいしいから困る。なんていうか体重の問題ね。食べ過ぎて太る。

「ヴォルデモートさんは、こういうのをもっと生かしたらいいと思いますですよ。そしたら甘いものが好きな女の子とかお子さんとかが仲間になってくれると思います!」
「足手纏いはいらん。お前のようなアホは一人で十分だ。むしろ十分すぎる」
「えっ足手まといってもしかして私のことなのですか? あ、もちろん違いますよね? わあ、誰でしょうねその人……なんだかカワイソウなのです!」
「………………もういい」

ため息をつかれながら言われるとなんだかむなしいものがある。
まあ、そんな事はどうでもいいですね!
とりあえず目の前のチョコクッキーを頬張って、それからアップルティーも頂く。
こうしてるとまるで、どこぞのお嬢様のよう……!とか妄想してみたりするけど、実際この屋敷に来てからの私の生活は、事実上お嬢様のようだったりする。
ルシーとか、死喰い人さんも私のことを「fist name様」と様付けで呼んでくれるし。多分、ヴォルデモートさんが私のことを特別扱い的な感じにしてるからだと思う。私は死喰い人でも彼の身内でもない。のにここに居る。あ、この場合居させてもらってる、が正しいか。
ヴォルデモートさんが私をここに置く理由は、私が未来から来た珍しい人間だから、オブ、未来の事を知ってるから。

「……それだけにしては結構優遇されてるような気がしないでもないのです、けど」

思わずつぶやいてしまった私の言葉に、ヴォルデモートさんは動きを停止させた。
ちょっと言葉足らずだったから何の事かと考えているんだろう。不思議そうに少し丸くなった瞳がちょっとかわいい。

「………………そんな事はない」

はい嘘ついた!10秒くらい長々と考え込んだくせに嘘つきやがったー!
じゃっかん目を逸らしながらそんなことない、とか言われても説得力がないですよヴォルデモートさん。
……言いたくない理由でも、あったのかな。

「貴方にとって有益な情報は与えないって言ったのに、ですか」

彼の紅い瞳をじい、と見つめながらほんの少しだけ鎌をかけてみる。
すると彼は面白そうに口元を三日月の形に歪ませながら、目を細めた。
あ、知ってる。面白いものを見つけた時とかに、ヴォルデモートさんがよくする顔だ。ちょっとヤな予感。

「お前が黙っているとしても、言わないのなら聞き出すから心配ない。……もちろん、聞き分けの無い無能な家畜に手段は選ばないがな、fist name」

わーい。
聞くんじゃなかった。マジで聞くんじゃなかった。ていうかあの、全力で聞かなかったことにしたい。していいですか?
背筋やらに寒気を覚えつつ、でもおかしな事に怖がっている傍らで面白がっている自分もいる。間違っても望むところだ!とか言い出さないでね私。容赦なく真実薬とか使われたら嫌だし。
衝動的にアップルティーを喉に流し込み、胸の内の好奇心を沈めてから、おそるおそる口を開く。

「家畜って、どういう意味ですか。こんな可愛い美少女に向かって!」
「……先程も同じような事をわめいていたが、一応聞く。それは本気か?」
「ちょ、ますます失礼! も、もういいです、ヴォルデモートさんなんかハゲになればいいのですよっ!」
「誰がなるか。むしろお前がなるべきだろう。一日に一度くらい脳味噌を動かしているか?」
「むっかー! ば、ばかにしないで下さいですっ! ご心配なく、今日もいっぱい本を読んだのでもう脳味噌フル回転ですから! フルスロットルですからー!」
「どうだか。お前のことだから信用できんな」
「なななんですと……!」

こうなったらもう年齢関係でへこませてやろうか……と企んだ時。
彼が少し、少しだけだけど、皮肉そうに、わらっているような表情を、見せた。

「……え」

思わず、罵倒がこぼれてくるはずだった口を閉じ、驚きで目を丸くさせながら、彼の顔を凝視してしまった。
けどそこにはもう、さっき見たはずの笑顔なんてなくて、いつもの冷たい感じの表情が浮かんでいるだけだった。
反射的に、頭の中で、さっきの笑顔を思い浮かべる。
まるで、仕方ないなと苦笑したような、やさしそうに目を細めた――
思い出した途端、なぜだか体温と鼓動がいっきに跳ね上がった。

「……っ! あっ」

何も考えないまま手を口元に運ぼうとしたら、手を滑らせてしまいカップに指先を引っ掛けて、そのせいで傾いたカップから中に残っていたアップルティーがこぼれて、テーブルクロスに染みを作ってしまった。

「何をしている。まったくお前は……」

面倒なことばかり起こす、と呆れた眼差しで私を見つつ、かろやかに杖を振って、魔法で染みを消した。
とても魔法が上手な彼は、一瞬でテーブルクロスを元のように真っ白にさせた。
テーブルクロスは綺麗になった。けど、私の頭は未だ混乱したまま。

「あ、その、え、えーと……あの……ご、ごめんなさいです! 失礼します!」

なんだか居た堪れなくなって席を立ち、そのまま逃げるようにしてヴォルデモートさんの私室を出る。
長い廊下を走って走って、ようやく自分の部屋に着いて足を止めた。
ここで生活してからというもの、運動なんてまるっきりしてなかった為、そんなに距離はなかった筈なのに、呼吸が乱れてしまう。

「ふ、はあ、はあ、はあぁ…………」

自分でもよくわからない。何で逃げたの、逃げる必要なんて別になかったじゃない。
せっかくヴォルデモートさんがテーブルクロスの染みを消してくれたのに、お礼も言わずに出てきちゃったよ。

「うう……」

顔が熱い。
走ったせいもあるんだろうけど、ヴォルデモートさんの笑顔を見てからずっと。
そういえば、彼の、あんなふうに自然な感じのわらった顔を見るのは初めてかもしれない。大体は嘲笑だったりするから。
なんだ、あんな風にして笑えるんじゃないヴォルデモートさん。きっと、本人では気づいてないのでしょうね。

「……いつも」

いつも、ああやって、……。
とそこまで考えた時、ありえないとその考えを打ち消した。あまりにもおかしな考えに思えたから。


やさしく細められた、紅色の瞳を思い出す。
いつも見る度感じていた。
きっと、あれより綺麗な赤色は、ないのかもしれないと。

(それとちのいろに 似てる)




      


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