ひどくかなしい。
せつないくるしいいたいつらい。
「私にはわかんない」
「ずるい」
私はVOCALOIDだ。
人の気持ちを理解する能力が備わっている。
でも、私たちはふたりでひとつだ。
ふたりをつくるために、少しだけ失敗したのだろう。
私には負の感情が欠落していた。
……そして
「リンが世界がきれいという理由がわかんない」
レンには、うれしいとか、安心するとか、楽しいとか、そういう素晴らしい感情が欠落した。
「どこをどう見ればきれいなの、角度と視点を教えてほしいね。それにオレたちはただ歌えたらいいんだから」
いくら謝ればいいんだろう。でも、レンに素晴らしい感情が欠落したのは私のせいではない。
どうしてだろう、自分が悪いとは思えない。
レンが、苦しんでるのに、私は苦しめない。
苦しむという感情が、ないから。
レンがわからないという無念に溺れる。
私は、それを謝らなければならない。
「レン、きれいだね」
私たちの目の前にあるひとつの花を見ていった。
「わからない。なにもわからない」
花は悲しげに揺れたような気がした。
なにもわからない無のレンを壊れ物のように抱き締める。
わたし達も人間も、生きている間に感情が無くなることはあるのだろうか。
生きている間、私たちも人間もつねに感情を抱き続けているんじゃないのか。レンは、今どんな感情を持ってるのだろうか。
きっとわかっても、私には共有どころか理解もできないのだろう。
それでも、私はレンの苦しい感情を共有したいのだ。
そして、私の喜びも安心もすべてレンに共有させたい。
だって私たちはふたりでひとつ。
end
titel 水葬様
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