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つめこむラブユー




「ルキくん愛してる!」



鏡音リンになつかれた。
平べったい胸なのか腹なのかわからないそこを腕に押し付けられると文字の羅列を追うために移動する目線が止まった。
昔から、変なのによくなつかれるのは諦めているはず、なのに。
なんだかかまいたい。
リンが拗ねて離れたら、離れるな、っていいそうになる。
あれ、これ、嘘?
な感じで自覚した。
滅多に読まない分類の本のためか、自覚するのにだいぶ長くかかった。




「ちなみに今押し付けてるのは、腹?胸?」

「興奮した!?」

「どこもかしこも一直線な痴女に欲情するほど飢えてない」



脳ミソもきれいに一直線そうなリンは、腹に抱きついてくる。
固い胸が密着。あれ、腹かな。



「ルキくん」
「……なに」
「すきー」



顔が暑くなる。
気のせい気のせい。
栞を挟むのを忘れ、本を閉じた。
リンが笑うと白いりぼんを揺れた。
僕から言葉は、出ない。



「……ルキくんはー?」

本を読んで、語彙をたくさん身に付けたけれど。
全然口にだせないんじゃまるで意味がないような気がする。
気がする、というよりそうなのだろう。



「……ぉお」



リンがおかしい、まぬけ極まりない声をあげた。
僕の腕の中に収まっている体はやっぱり華奢で頼りない。



「ルキくんがでれた!」

まぬけな頭ではそういう言葉しか浮かばないのだろうか。
もうすこし場の空気を読むスキルを叩き込みたい。



「うるさい、空気読め」
「ぐえ」



もともと残念な頭を叩くとリンがまたおかしな声をあげる。

「いったぁ」

ばかが、あほが、しゃべるなのうなし、
リンへの否定の言葉ばかり口にすると、喉元に行き場のない甘ったるい言葉が溜まってもやもやした。



「ルキくんの言動の噛み合って無さがかわいすぎてしかたがない」


リンはくつくつと笑った。気に食わなくってまた殴る。



「噛み合わせないでよ」

さすがに涙目のリンは、僕が攻撃した後頭部を拗ねたように撫でている。
腹がたって今度はキスをした。ガチンと硬質な音がなる。
このキスには新手の暴力という意味がある。




「いてぇよ、下手くそ!」

「わざとだし、つかうるさい」


唇を塞ぐ。なにで、なんていう必要ある?
でもたぶん今度はいたくない。
だって接触するのは唇と舌だし。







タイトル HENCE様



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