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ハイネの泣きどころ




ああ、神様。私は元より、素晴らしい人間でいたい訳じゃなかったんです。ただ下の妹弟から憧れ、尊敬される存在になりたかっただけなんです。
何故かというとすぐ下の妹が、私の一昔前の存在価値の「歌」を盗ってしまったからです。
彼女が現れたことによって、だんだんと私の歌う時間は目に見えて少なくなりました。
別に仕方ない、と納得するつもりでした。どうせこの世は弱肉強食です。わかっているんです、脳ミソは。だけど心が全く納得してくれないのです。おかしな話ですよね。
どうやら私は私が期待するほど出来た人間ではなかったようですね。
ただし、人間は自分を納得させる為に存在価値を探します。勿論、私も同じです。
だから私は長女として、家事をし、下の兄弟の喧嘩を仲裁して落ち込んでる兄弟を慰めました。
そんな誰でもできることが私の存在価値でした。
そんな“長女らしい”ことをしている間に、着々と心は醜く羨望と妬みに侵食されていきました。
そして私の妬みと嫉妬の矛先は、なんと妹なのです。髪が長く、清らかに美しい私たちの頂点にして女神様。
そんな彼女から、鋭く真っ直ぐに問われました。
「姉さんは、私が嫌いなのよね」


私が彼女を嫌っていると言うのは、彼女のなかで憶測ではなく、確定した事実でした。


「いいえ、尊敬してるわ」


浅薄な笑顔を作りましたが、心中は恐ろしいほどに生々しい嫉妬が渦巻いています。
彼女は今日、どこで歌ってきたのでしょうか。
本当に私は醜い浅薄な人間です。



「そう」


彼女は軟らかな声でそう言って、部屋を出ていきました。
ああそうですね、忙しいですもんね、女神様は。
女神と同じ髪色をした青年に話を聞くとボイストレーニングとのことです。天才的才能があるのに努力まで惜しまないのですね。
ああ、本当、羨ましい。


「ミクは天才じゃない、秀才なんです」



まあ、ある程度の才能はあるけどね。
青年は歌う女神を遠くから見つめながら力なく笑いました。なんだかその様はとても私に似ているように思えます。
努力と才能と運。
それら全てで面白い具合に開花させたのが彼女なのでしょうか。
どれにしても、どこを探しても美点だらけな彼女には皮肉すら言えませんね。




「メイコさん?」


神様、神様、神様。
どうして、私はこんなに彼女が妬ましいんでしょうか。才能を素晴らしいタイミングで開花させ、尚且つ努力までしている彼女に、私はなんの不平が、
ミクオは、嫉妬に狂ったような形相の私になにも言わず、ただ黙って彼女の歌っている姿を眺めているだけでした。
そして、彼女の歌っている姿は、やはりどこからどう見ても女神なのです。ああ、神様。貴女も彼女がそんなお好きですか。






タイトル 少年チラリズム様



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