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だって独り善がりだもの




手を繋いだことがないのだ。
ルキくんに抱きついたことはある、実は。
頭を撫でたことまである。ちなみに全て本気で嫌がられた。
あんまりしつこくし過ぎた時は、避けられた。
擦れ違った瞬間の、あの、スッ、て感じ。
それだけで、泣きそうなくらいに乱された。
ああ、やり過ぎた。って後悔しながら、構ってくれるのをじっとそれまでルキくん欠乏症になりながら、待っていた。
ああ、いまここで気づく、ルキくんの無意識の恋の駆け引きにはまってしまった。
恋しい、切ない。




「私は、ルキくんの手が好き」

「……は?」



ルキくんが私を構ってくれた。久しぶりに話した。泣いちゃいそうだ。
嬉しくて嬉しくて、たまらなくて、呼吸が浅くなった。
ああ、私はきっと恋に殺される。




「ひとつ増えた」

「だってルキくんのこと好きだし」

「……へー」



ルキくんは当たらず触らずの距離で私を眺めていた。
私もルキくん眺めるために彼に目を向け、必然的に目線があった。
そして一秒も待たずに、お互いに反らす。
無理なの、一秒も。無理なのよ。
気づくと、頭を撫でていた。
少しでも、ルキくんに触れたい。桃色の髪をわしわしと撫でまわす。
私は、ルキくんの頭蓋骨、所謂頭の形が好きだ。


「やめて」


冷たく睨まれて、少し怯んだ。
男の人が本気で怒ると、本当に恐ろしい。
怒鳴って、叩いてくる。
男は怒ると、暴力的になる。
殴らなくても、蹴らなくても、とても暴力的なのだ。
その女にない迫力は、男に怒られたことの少ない私なんかすぐに泣きそうになる。
もうある種のトラウマだ。
そんな中、私はルキくんを本気で怒らせたことが一度だけある。
所謂セクハラに該当する行為をしてしまい、怒鳴られた。
その時急に恐怖に飲まれた気がした。
呼吸が浅くなり、目が段々じわりと濡れていくのがわかった。
そんな私を見て、ルキくんは起き上がってどこかへいってしまった。
そこから、口を聞いてくれなかった。
寂しくて切なくて堪らなかった。
だから、今だってルキくんに睨まれるてびくりと情けなく震えている。



「ごめんなさい」


つい、謝罪を呟いてしまった。
どうでもいいように、ルキくんはゆっくり私から目を反らした。
それもそれで寂しい。
それにしても、恋をしていると毒薬と麻薬を舐めている気分になる。
人を駄目にするいけないモノだ。
恋はするものではない。とくに片想いは得をしない、逆に損ばかり。



「ルキくん」
「なに」
「好きなんだ」
「そう」



残念ながら私の言葉の重量と気持ちの重量は比例しないのだ。
だからなのか、全く彼に伝わらない。
自分の心中を伝えるための言葉なのに、伝えることのできなかった言葉は、役たたずか。
役たたずは死すべきだ。愛している、という言葉は死んでしまえ。好きという言葉も死んでしまえ。そしてこの気持ちは死んでしまえ、そしたら私は救われる。
私は恋から解放される。


「ルキくん、愛してる」

結論を出した初っぱなから私は愛を口にした。
ああ、どうやらきっと私が生きている間に、私は恋から救われることはない。






タイトル 空想アリア様



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