小説 | ナノ
 

怒涛パラノイア




act2リン……Rin

Rin→クオ



「壮観」

「へえ、とりあえずRin、降りてよ」

「やぁよ」



何故か僕の上に馬乗りになってネクタイをほどこうとしている、少女の肩をゆっくり優しく押す。
やんわりと押したつもりが、Rinの表情は明らかに怪訝になり、僕の肩をまた力をかけてきた。



「ねえミクオ、どこみてんの」

「別にセクハラに該当されるようなところは、どこも」


とゆうか、この体制のほうがセクハラというかなんというか。


「そうじゃないわよ……全く、相変わらずね。」

「どうも」


僕はRinが苦手だ。
けして嫌いではない。
でもなんだかたまに怖くなる、喰われそうな気がして。
なんだろう、ヌーになった気分だ。



「……ミクと用事があるんだけど」

「ミクならLenとイイコトしてるわ」

「まーた、下らないことミクに吹き込むつもりなら止めてよ。ミクの邪魔するなら、本気で潰す」
「こっわーい」


Rinはけらけらとそらぞらしく笑った。
そらぞらしい……そうだ、彼女を表す言葉でこれ以上にぴったりとあう言葉はない。



「ミクがそーんなに大事ー?」

「ああ、誰よりも、何よりも大事だよ」

「それって刷り込みじゃないのー」


認める。
ある意味の僕からミクへの忠誠心の深層真理だ。
だが、それでも別にいい。ミクを大切にしたいそれだけでいい。
概念や理由なんて、必要ない。
ただそこに“ミクを大切にしたいという事実”があるだけでいいじゃないか。



「ああ、認めるよ。僕のミクへの忠誠心は刷り込みだ。ミクを頂点に君臨させ続ける為のね。」



僕がその言葉をいったとたん、Rinにふっと表情が無くなった。
歓喜も憤怒も悲壮も、なんの装飾もされてない、なにもない表情。
Rinの通常時の表情がニヒルな笑みだと思っていた僕にとって、その表情のRinはイレギュラーだった。
そういえば、ミクもたまにこうなる。
甘えを許さない、威厳ある瞳が、僕とふたりきりになるとついつい気が抜けたのか、なにもなくなるのだ。
甘えも、威厳もなにもない、無防備な表情。
そんなミクを見ると、砂糖の沢山入ったコーヒーを入れて静かにそばにいる、それが自分の役目だと僕は自負していた。
Rinの今の表情と、その時のミクの表情は似ていた。



「そこに、ミクオの意思はあるの?」


密かに小さく唇が動いた。


「言っただろ、僕の意思なんて関係ない。これは刷り込みで、生きる為の糧なんだ。」


瞳が小さく揺らぐ。
僕はなにもない彼女の表情を見て、とても的はずれなことを思ってしまった。
ミクとRinが似ている。
ああ、思考回路がとち狂ったとしか思えない。



「じゃあミクオはいつ自分の意思で行動するのよ」

「いつだろうねぇ」


Rinとミクは似ていない。
むしろ正反対、対極の位置にいる。
なのに、なぜ。こんなに似ているのだろう。
にているだけで、同一ではない。
ミクに捧げるのは忠誠心だ。揺らがない。揺らいだりなんかしたら、それでこそ僕の価値がなくなる。
自分を生きてる価値のない人間だと思うのは、辛いだろうなあ。



「私は、愛すよ」


なにもない顔から一転、今にも泣きそうな、悲壮的な表情になった。





「私は、ミクに見放されたミクオでも愛せるよ」


Rinは笑みすら浮かべず、空々しいほど抑揚のない声で言葉を紡ぐ。
その言葉に僕は頭の先から爪先まで一気に熱くなり、そして数秒もしないうちに、頭の中身がすぅと冷めていった。
……僕は今、怒ってるのだろうか。
可笑しいな、ミクを支えるために、憤りは必要ないのに。



「ミクオ」

「お前のせいで、僕はおかしくなったんだ」

「ミクオ」


もう憤りを通りこして泣きたくなったきた。
そして名前を呼ばれて、初めて気づく。
Rinの暴力的な冷静さ、そらぞらしさのなかの情熱。惹かれているは、僕だった。




「ミクを愛さないミクオも、愛せるよ」


二度目の言葉。
僕には、蛇の甘言だった。
つぅと頬に伝う水。
それをRinは無遠慮になめとる。
ああそうか、Rinとミクの似ているところは、冷静と情熱が化合しているところなんだ。
気づくと僕の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
おかしいよ、ミクのために涙はいらない。
すると、Rinは表情を変えず、僕の頭をまるで生首をつかむように掴んだ。



「泣いてるミクオも、すごく素敵。」


そう言ってRinは恍惚的に微笑んだ。
僕たちは、キスをした。
そのキスはRinの性質にそっくりだった。
冷静と情熱が化合した、キス。
すごく刹那的で瞬間的だったことは覚えている。
僕はその刹那を全身全霊をかけて味わった。




「ミクには、内緒だね」

「……」


ミクは怒るかな。
約束をすっぽかして、こんな女とキスをしているなんて。
頭が混濁し、ぼうと虚ろにRinの顔を見ていた。
Rinは僕の頬をなぞる。
僕は、動かない。




「心配しないで、あっちもお楽しみ中だから」


またにこりと、笑った。



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