act1レン→Len
Len→ミク→リン
「バナナかと思ったら、性悪なほうのLenか」
「ん、あぁミクちゃんか」
「ちゃん付けするな、気持ちわるい」
「いいや、ミクちゃんはミクちゃんだね」
にやにやと性悪に笑ってきたのは、Lenだ。
どこぞのバナナと全く同じ姿をしていた。
それでこそ、どちらかが入れ替わっても気づかないくらいに。
そして、向かい合ってさらに気づかされた。
リンちゃんよりも、バナナに似ている。
性別の壁はやっぱり大きい。
「で、そんなミクちゃん。いつ僕にオチてくれるの?」
「落ちない。」
簡潔に簡単に言い切った。
私はLenに恋をしない。
恋敵に似ている彼なんて嫌いだ。
嫌いなんだ。
顔が、体が、髪が、すべてがきらいだ。
「ところであんた、私のどこが好きなの?歌声、それとも人格?」
「顔」
にやにやとした笑みのまま、言い切られた。
こうあけすけ顔が好きと言われたのは初めてだ。もうここまでいくと潔いの領域だと思う。「ねぇミクちゃん。ミクちゃんはなんで僕に靡いてくれないの?」
何でって、わからないのかな?
わからないのなら、自分の顔を鏡に写してみるといい。
「顔」
「おかしな話だね。僕はミクちゃんの顔が好き、で、ミクちゃんは僕の顔がきらい。ねえ、ミクちゃん。僕はアイツとは違うんだよ?」
「でも、あんたはバナナに似すぎてる」
「ほーんと顔しか見てくんないんだね。僕と対して差がないよ。それにミクちゃんの意思なんかは関係ない。ミクちゃんは黙って僕に靡けばいいの」
そのニヒルな口もとから吐かれた言葉は衝撃だった。どんと落とされたような気がした。
Lenは私の心が欲しいんじゃないんだ。
こいつは、私の身体と顔がほしいんだ。
それこそ、私のナカミがない死体でもがらくたでも人形でも、それでもいいんだ。
本当に、顔と身体しか見てない。
「いま決意した、あんたに一生靡かない。」
「えー、素直に事実を言っただけなのにー。ちなみにリンはミクちゃんみたいに正しくないから、そう、だけでなにも言わなかったよー」
「リンちゃんにも言ったの?しねばいいのに。」
けらけら笑う。こいつには、一生勝てる気がしない。
だってこいつは私のきれい身体と顔が手にいれれば、別に中身がいくら傷ついてもいいのだ。
傷つけるの手段のひとつ、なのはどうも理解できない。
「理解なんてしなくていいんだよ。だからいってるじゃん、ミクちゃんは僕に愛玩されてればそれでいいんだよ」
私が眉を潜めたのを感じ、いじらしいその顔をただ愛玩したいだけだよ。とにやけた面がどうも頭に来て、踵を返してそいつの前から立ち去ることに決めた。
「ただし、その聡明なくせに、リンを思って乱れきっている中身も、悪くないとは思うよ」
心を愛されてて付属品の顔。
顔を愛されてて付属品の心。
どちらも、おんなじことじゃないのかな。って思ってきた私は、Lenという小僧にだいぶ洗脳されてるようだ。
顔だけを愛されてるあの安心感。恐ろしいと、思う。
中身は関係ないから中身を見限られることはない。中身を、否定されることはない。
それは、どんなに心地よい堕落か。
「あの、性悪が…」
論破されそうになったのを、息を飲んで耐えいた。
もしかして私は、今、あいつに惹かれているのだろうか。
そんなの、信じたくない。
タイトル 水葬様
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