「そうやってクオがなにか喋るたびに、あの子が泣くのよ」
「しょうがない。本当のことだし。」
「あんたは無口でじっとしてればリンちゃんは寄ってくるのに、損してるどころじゃないわね。」
クオはリンちゃんをよく泣かす。
だからリンちゃんは彼にはけして懐かないのよ。
きれいな声で正論や事実を吐き、土足で心を掻き回すから。
確かに、心の平和には邪魔な奴だわ。
「リンちゃんに好かれるなら、あの子の心を乱さないように、当たらずさわらず、深入りしないのが一番なのよ」
「知ってるよ。陳腐だねぇ、馬鹿らしいねぇ」
クオは本当に小バカにするよいに笑った。
リンちゃんは、確かに陳腐だ。優しくっていい子、それ以外にあの子なにがある。
「そんなリンも天使なんだけどね」
「さらっと言うわね」
リンちゃんの概念やら、信念やら、リンちゃん自身ともいえるモノを真っ向に否定しておきながら、何故まだリンちゃんに好かれようとするの。
それは、矛盾してるわよ。好かれたいなら、好かれたいように、リンちゃんの心を乱さないで。
「だって俺は、リンが好きだから」
「よく言うわね」
「リンの傷に触らずよらず、触ってリンに嫌われるのが怖いんでしょ?」
はっと鼻で笑われる。
私から舌打ちが自然と起きてしまった。
不服で不快で仕方がない。まさか私の亜種、所謂私以下の男に此処まで蔑まれるなんて。
不服だ、不快だ。
「そんなんじゃあ、無理だ。ミクはリンを本当に自分のモノにすることてきない。」
「そろそろ、口がすぎるわよクオ」
「おうおう、怖いんだから、うちの歌姫さんは。」
私は踵を翻し、目の前の道化に背を向ける。
例の道化はきっとにやにやと笑っているんだろう。
「リンを潰しなよ。できるでしょう?天下の歌姫ミク様なら。」
「イヤよ」
「怠惰だねぇ。そんなんだからリンは成長どころか、自己陶酔にひたる、甘えるだけの愚図に退化するんだよ。それはリンの為にならない。それでもいいの?」
足を止める。
私がリンちゃんを止める?イヤよ、リンちゃんが泣いちゃう。そんなことより、私がリンちゃんに嫌われるじゃない。
そんなの、嫌。
でも、リンちゃんは潰されることで絶望し、私を嫌い、そして救われるのでしょうね。
「私は、リンちゃんの成長より、自分が嫌われることが怖いのよ」
「みんなそうだよ、リンを愛するヤツはみぃんな。リンのことより、自分のこと。」
「確かにそうね。私もバナナも」
「だから愛されることはリンにとって、とても不幸なことなんだよ」
「まるで病弱な子供のように誰にも怒られない。
嫌なことがあると全てみんなが何とかしてくれる。それなのに自分は不幸、そう思い込み自己陶酔に浸るかわいいかわいいリン。」
クオの言葉に私はなすすべもなくぎりぎりと下唇をかむ。
「ほーんと愛されるということは、素晴らしいことだねぇ。」
タイトル 空想アリア様
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