彼女がなにか動作をするとき、酷く手際が悪い。きれいな花を生けようとすると、最低30分は掛かる。
つける目当てで花をつんでくると、花瓶のないことに気付き、探し回る。
そして、ようやく花瓶を見つけると花をなくし探し回る。
「非効率きわまりない」
「そう?」
機敏とはかけはなれている動作をゲームをしながらちらりと見る。
あ、花瓶落とした。
「わっ……よかったあ、割れてない。」
落ちた花瓶をみるとまだその形を保っていた。
リンは慌ててそれを拾い上げる。
その時、ゲームから「NO〜」という音が聞こえる。
ゲームオーバーという文字が粗いドット絵で表示される。
「ねえ、レンはなんのゲームしてるの」
「ゲームボーイ」
「古っ」
レトロかんが溢れるゲームボーイは俺の手の中で収まっている。
最新式では、タッチ式やらネットに繋げるのまであるらしい。
素晴らしい科学の発達だ。ああ、俺らが生きてる間にどれくらい変化するのだろうか。
少なくとも、リンの動作スピードが早まることはないだろうけど。
何故か、俺はそれにひどく安心するのだ。
「レンが年寄りなのはわかったから、ゲームボーイなんてやめな、目が悪くなるわよ」
俺は黙るしかなかった。
リンが目が悪くなる要素を含んだ動作なんてしないから、言い返せない。
リンは素晴らしい機械音痴だからだ。
携帯も無理、PCなんてもってのほか。
だからだろうか、リンは俺がそういう文明機器を使うことをやたら嫌悪する。
たぶん、気味が悪いのだろう。自分の分身とも言える人間が、自分の苦手なことをしているのは。
リンの緩やかな動作で俺に近づき、手の内に収まっていたレトロなソレを取り上げた。
緩やかすぎる動作で。
「……」
一瞬床に叩きつけられるかと思ったが、杞憂だったようだ。
「……このカセット、賞味期限きれてなかったけ?」
カセットに賞味期限なんてあったか、と頭を捻る。だが、それは彼女の独特な比喩だと結論付けた。
「セーブができないだけだよ」
「ふーん」
リンは興味なさげに顔を背けた。
猫みたいだと、髪を撫でた。
するとすりよってくる、まじ猫だ。リン猫。
「もう花飽きたぁ。」
「へーじゃあ昼寝でもしようか」
「さんせー」
リンに勝手に拾われ、勝手に飽きられた一輪の花を横目でちらりと見た。
俺には花の表情なんてわからないけど、なんて思ってるんだろうな。
でも、お前もかわいそうだな。
「レンー?」
「あーはいはい行こうな」
リン猫がドアから少し出たところでゆっくりゆっくり手招きをしている。
「今いくから」
そういって緩慢で気ままなリンに近寄りキスをした。
タイトル 水葬様
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