今思えば、それは一目惚れだったと思う。
 まさかこんなにも息が詰まりそうになるくらい、好きになるとは思ってもみなかった。

 俺が好きになった奴は、俺と同じ性別をした奴だった。
 最初は否定だってしていたさ。いくら俺の勤めている学校が男子校だからといって、外に出てしまえば女なんていくらでもいる。それなのに同性で、しかも生徒相手に恋をした。

「せんせい、顔赤いけど大丈夫? 熱?」
「いや…だ、大丈夫だ」
「それならいいんですけど」

 突然に額に触れられた手の感触に、びくり、と肩が揺れた。
 触れられた額がジクジクと熱を持ち始めて、熱い。

 アイツを好きだと自分の中で認めてから月日が経ったが、まさかこんなにも好きになるとは思ってはいなかった。
 同性愛者の多い学校だ、周りに流されたと、一時の気の迷いなのではないかと思い、気持ちを否定していた。
 だけど、生徒として触れ合う内に感情が高ぶってしまい、否定しきれないくらいに好きになってしまった。

「なあ、」
「なんですか?」
「…いや、やっぱなんでもない」
「ふは、変なせんせい」

 第一印象は、平凡な奴だなと失礼極まりないことを思った。
 特に特徴もなにもない性格をしている彼は、他に埋もれてしまうほど。
 だけれど、自分の好きなことをする際には、とても楽しそうにやる奴だった。

 きれいに笑う奴だな、そう思った。

 容姿の整った奴の笑顔ならたくさん見てきたし、彼のような平凡な容姿をしている奴の笑顔が印象に残ることもあまりないのではないかと思う。本当に失礼な言い方をして悪いのだけれど。

 けれど、ただの綺麗な笑顔ではなく純粋な笑顔に惹かれたのだ。作られたものではなく、心から笑うそれに目が離せなくなった。

「てかせんせい、本当にホストみたいだよね」
「そうか?」
「みんなが騒ぐのが分るよ、見た目だけはホストっぽい」
「そういうのは意識していないつもりなのだけれど」

 外見がホストのようだとは生徒たちにも同僚たちにも散々言われたことがあるので、そういう認識をされているのは知っていた。
 でも、ホストを意識しての格好ではないことは確かなのだ。ただ、こういう格好をした方が近づき易くなるのではないかと思っただけのことであって。

 この格好で街を歩いていた時、本当にホストの勧誘をされた時は正直びっくりした。もちろん教師を辞める気はないので丁重にお断りしておいた。

「もっとボタンを閉めたらどうですか」
「…普通、くらいだろ」
「いや、これは襲われても知りませんよ」

 お前にだったら、襲われてもいいのに。
 そう言えないのは、俺がへたれだからであって。年上として情けないと言うかなんと言うか…。

 それでもお前が気になると言うのならば、ボタンは閉める。でもお前と二人きりである今だけなら、ボタンを閉める必要はないと思うのだが。

「あと、俺、せんせいは黒髪の方が似合うと思いますよ」
「は…?」
「どうして金髪にしたのですか」
「なんとなく、理由はない」
「それなら黒にしてください、そっちの方が好きです」
「あ、ああ…分った」

 なんだかコイツのペースに流されているような気がするのだが、きっとそれは気のせいではないのだろう。

 髪を染めたのだって、絡みやすい印象を与えたほうがいいかと思っただけで。
 髪の色にこだわりはなかったし、金髪にしたのだってなんとなくのこと。

 派手な方が近づき易いだろう?教師としては自重をしたほうがいいのだろうが、周りが周りなので変える必要も感じられなくてな。

 でもまさか黒髪のほうが好きだとは思わなかった。調査不足かもしれない。
 帰ったら直ぐにでも黒髪に戻さないと。

「…なんか」
「はい?」
「ちょっとお前、さっきより近くないか?」
「それは気のせいですよ」

 いや、間違いなく気のせいではないだろう。さっきはもう少し離れていた気がする。こんな、顔が近くはなかったような…。
 ボタンを閉めていたはずの手は、いつの間にか髪の毛の毛先を弄び気がつけば俺の頬を上から下へと撫でるように触っていた。
 じわじわと触られている部分に熱が集まっていることに気づく。きっと俺の顔は、すでに馬鹿みたいに真っ赤に染まっているに違いない。

 鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離にある顔は、とてもじゃないが気のせいに感じられない。
 今にもキス出来そうなほど近くて、今度こそ顔が真っ赤だとバレバレだ。隠すなんて出来ない。それでも視線を逸らすのは嫌で、真っ赤に染まった顔で見詰め返した。

 ああ…でも、もう駄目だ耐えられない。
 両腕で隠すように顔を覆った。あまり意味はないのだけど、そうせずにはいられなくて。

 目の前で喉が鳴る音に気がついた。どうやら笑われたらしい。

「おまえ、な…」
「だってせんせい、俺が近づくと真っ赤になりますから…」
「分っていてやっていたのかよ…性質悪いな…」
「ええ、真っ赤になったせんせい、可愛いですから」
「な…!」
「ああほら、さっきより赤くなった」
「うるせえ!」

 弧を描いて笑うソイツに勝てる気がしないと思った。

 確信犯だったとか、聞いてない。
全部がせんぶ、お前のせい
(真っ赤になるのも、鼓動が早く高鳴るのも)
(すべて、お前が原因なんだ)



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