■ 仕事はきっちり

『これ、お願いします』

「承った」

いつも繰り広げられる会話。

大通りに面しておらず、人通りの少ない道にぽつんと佇む店。

クリーニング屋だ。

私は家から近いこともあって、よくそこを利用していた。

「渡せるのは明日の今頃だ。いつ取りに来る」

『明日の昼頃で』

ここの店員さんはいつも素っ気ない。

素っ気ないというか、私があまりにも足を運んでいるので慣れたのだろうか。

そうだと信じたい。

今は午前10時。

私はその店員に会釈をして外へ出た。

晴れている。

ひんやりとした風が私のコートにあたり、私は少し身震いした。


「冷えますね」

ふと話しかけられた言葉。

私は店の斜め前に止まっているワンボックスを見た。

その中にいる男が話しかけてきたのだ。

『李牧さん』

「覚えていてくださったんですね」

そう言って降りてくる李牧さん。

彼はこのクリーニング屋の店員だ。

業者のところまで洋服を運ぶ仕事をしているらしく、この時間帯はいつもこの辺りにいる。

「寒いでしょう?これを」

李牧さんは自動販売機からあったか〜いと書いてあるコーヒーを取り出す。

『あ、ありがとうございます』

手袋越しに受け取る。

ほんのりと暖かさがつたわる。

「今預けたのですか?ならば今日の夕方にはお渡しできますよ」

そう言ってクリーニング屋の扉を指さす。

確かにそこには「10時までに出せば夕方には渡せます!スピードが命です!」と貼り紙がしてある。

私はくすりとわらった。

『ありがとうございます。でも私明日に取りに来るって言っちゃったので』

そういえば先ほど店員さんに明日の今頃に渡せると言われた気がする。

店員なのに間違えることがあるだろうか。

『あれ、確か店員さんは明日しか渡せないって…』

「慶舎がですか」

私の台詞に李牧さんは少し驚いた表情を見せた。

『慶舎さん、って言うんですね』

中の店員さんの名前、初めて聞いた。

私は中を覗き込む。

こちらに気づくと、すっと目をそらす慶舎さん。

「慶舎が言ったんですか」

『ええ、確かに明日の今頃、と』

李牧さんは私の横からちらりと中を覗き込む。

「貴方は、いつもこの時間にこられますよね」

『え、ええ。でもときどき夕方に来る時がありますよ。そのときは慶舎さんではなくて、別の女性の方ですけど』

李牧さんは顎に手を当てて考え込む。

「慶舎……なにか考えがあるのでしょうか」

『え?』

李牧さんは、いいえなんでもないですよ、と笑う。

そしてちょっと待っててくださいねと言い、店の中に入っていった。

私は少しぬるくなったコーヒーをあける。

うん、まだ暖かい。

中の声は聞こえない。

いつものように服を受け取りに入ったのだろう。

私はそんなことを考えながら、コーヒーを見つめていた。

暫くすると、中から人が出てきた。

慶舎さんだ。

こちらの目を見ようとしない。

私は疑問を感じながら慶舎さんを下から覗き込んだ。

「今日の、夕方には渡せる…」

『あっ、はい?』

先ほど李牧さんから言われたのだろうか。

私は慌てて言った。

『でも、私は明日の昼頃にしか取りに来られないので』

そういうと少しこちらを見る慶舎さん。

「そう、か」

『はい!なので、またお話しましょうね』

そう言って私は笑う。

慶舎さんはびくりと身体を震わせると、おそるおそる私の目を見つめた。

「た、楽しみにしている」

中で李牧さんが親指を立てて微笑んでいる。

その嬉しそうな表情は何を示しているのだろうか。

『それじゃ、帰りますね?また明日お会いしましょう』

李牧さんから貰ったコーヒーを手に持ったまま、私は帰ろうとした。

「また、明日」

後ろから聞こえる声。

もう一度振り向くと、慶舎さんは少し口元に笑みを浮かべていたように見えた。




「いやー慶舎、気になる子がいるなら私に言ってくれてもいいじゃないですか」

「……」

「あっ、カイネ。聞いてください、今慶舎が気になる子をみつけたんですよ」

「もしかして姜麗ですか?」

「!?」

「姜麗って言うんですね、あの子…」

「慶舎様、正直バレバレでしたけど。姜麗が夕方に取りに来る時、私とシフト変わりたがってましたし」

「…慶舎」





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Twitterでの会話より



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