■ あれの秘密

私には気になっていることがある。

それは……。


『……』

「なんだ」


慶舎様の頭の下方についている鞠のような物体のことだ。

おさげのようにぶら下がっているそれに弾力性は感じられない。

もちろん普通に考えれば髪の毛をまとめているのだろうが、慶舎様がそれをとっている様子を誰も見たことがないのだ。

近衛兵たちにも聞いたからそれは絶対だ。


『け、慶舎様』


私は決心して口を開いた。

慶舎様の無機質で光が宿っていない目が、私を向く。


『今日はいい天気ですね!』


違う!!
そんなことが言いたいんじゃない!

聞きたいのはひとつ。

その頭についている玉のようなものはなんですか?だ!

「ああ、そうだな」

慶舎様は少し空を見上げる。

視線が上を向くと同時に鞠も微かに動く。

なんなんですかそれ、本当に貴方のものなんですか?

なにか寄生でもされてるんですか?

だからそんなに無表情なのですか?

もしかしたらその鞠が慶舎様の本体!?

「何を百面相している」

『鞠!じゃなかった、何でもないです!』

「まり……?」

慶舎様は私の言葉に首を傾げる。

「まりとは、あの鞠か?」

鞠の定義を聞かれてしまった。

確かに鞠ってなんなんだろう。

丸く幽かな弾力のある物体が私の中の鞠なのだが。

って、そんなこと考えている場合ではない。

私はごくりと唾を飲み込み、がばっと頭を下げた。

そしてついに核心に触れる質問をした。

『不躾な質問で申し訳ありません!け、慶舎様のその頭についている丸い物体はなんなのですか!』

慶舎様は私を見つめる。

もちろん表情は変わらない。

失敗しただろうか。

将軍に向かって部下が聞く内容ではなかった。

私には処罰が下されるんだろうか。

いや、でも後悔はしていない。

聞きたい事は聞けたんだもん!

慶舎様は口を開いた。



「秘密だ」



『えっ』


私はその返答に驚いた。

今まで何でも質問に答えてくださっていた慶舎様が、初めて質問をはぐらかした!?

慶舎様は少し表情を緩め(たように見え)ると、私に向かって微かに笑みを向けた。

本当に微かにだが。

「知りたいのか」

その表情に私は。

『いいえ、秘密のままで大丈夫です』

そう答えるしかなかった。



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