■ 私とカイネとときどき慶舎……あと李牧様

私の許嫁である慶舎はいつも素っ気ない。

素っ気ないというよりは、女に興味が無いのだろうか。

いつも李牧様と一緒に戦場に出ているのを見て、私は寂しい思いをしている。

『慶舎ともっと話したいなー』

「私の前で惚気けるな」

親友のカイネの横で項垂れると、頭を殴られた。

普通親友の頭を殴る!?

「慶舎様はそれほどまでに李牧様に信頼されているのだ。名誉なことだとは思わんのか」

そりゃ、李牧様大好きなカイネにとっては羨ましいかもしれないよ?

でも私は李牧様よりなにより慶舎のことが好きなんだ。

『私って女としての魅力がないとか!?』

「一理ある」

『百歩譲ってカイネには言われたくない』

「うるさい」

カイネはうるさいと言いながらも笑っている。

こんな口喧嘩ができるのもカイネだからだ。

『お色気作戦なんてどうかな』

「お前がそんなことしたら慶舎様の爆笑が見れるのではないか?それはそれでいいではないか」

『馬鹿にしてる?ねえ、馬鹿にしてる?』

私は盛大にため息をついた。

後ろから足音が聞こえる。

寄りかかっていた城壁の壁から身体を起こし、そちらを見ると。

『慶舎……』

「少し話がある、いいか」

慶舎がいた。

その横には李牧様。

慶舎のその感情の篭っていない目にびくつきながらカイネにすがるような目を向けるが、カイネは笑顔でこちらを無視し、李牧様に話し掛けていた。


慶舎のあとをついて人気のない通りに行く。

『慶舎、さっきの聞いてた?』

「ああ」

あちゃーと頭を抱える。

お色気作戦などと一将軍の許嫁が言うものではない。

それを怒られるのかと思っていた。

『ご、ごめんなさ「私より、カイネと話す方が楽しいのか」

えっ。

今、慶舎は何と言ったの?

「私が軍議から戻ると、いつもお前はカイネと楽しそうに話している」

それは親友だからで、話の内容はもちろん慶舎のことだ。

そのことを知らないであろう慶舎は続ける。

「将来の夫である私が戻った時くらい、話して欲しいと思うのだが」

『いや、それは』

だって、私が話そうとした時に限って慶舎は李牧様と話しているんだもん!

そう言おうとした時、私は慶舎の腕に包まれていた。

そしてそっと額に口づけが落とされる。

そんなこと初めてで。

私は一気に顔に熱を持った。

『け、慶舎!?』

「……嫉妬は見苦しいだろう」

慶舎の心臓が早鐘を打っている。

慣れないことするからだよ……。

『実はね、私も李牧様に嫉妬してた』

「李牧様に?」

不思議そうに眉をひそめる慶舎。

『私はずっと話したいと思ってたのに、二人きりになったと思えばすぐに軍議に呼ばれちゃうし、戦では慶舎は李牧様の横だし』

もちろん後者は将軍である以上仕方のないことだ。

『でも、慶舎も同じ事考えてたならおあいこだね』

そういって私も慶舎の背中に腕を回した。

甲冑を着込んでいる慶舎の胴回りをなんとかして抱え込む。

「……」

慶舎が黙り込んだのでどうしたのかと思い、ふと顔をあげる。

目と目が交差する。

顎に片手を添えられ、慶舎の口が私の口に触れる。

触れるだけのものから、だんだん長く。

さすがに声も出そうになった時だった。


「はい、そこの二人、せめて戦が終わってからにしてください」


爽やかな声。

ぎぎぎと音がしそうな早さで私達はそちらを見た。

そこには案の定。

「李牧様……」
『李牧様っ!?』

横には呆れ顔のカイネもいる。

私達はすぐに離れた。

『いえっ、あのっ、これは!』

「姜麗が初々しいから手出ししなかったのは褒めてあげますが、このままだと貴方、姜麗を食べていたでしょう?」

私を食べる?いったいどういうことだろう。

「……そんなことありません」

「沈黙の狩人とは上手く言ったものです。姜麗も気をつけなさい」

『何を気をつければ?』

カイネが私の頭を叩く。

「あとで教え込んでやるから覚悟しておけ」

「なっ……」

「慶舎はカイネと姜麗の話に入っては駄目ですからね」

私の腕を引っ張るカイネ。

それを追おうとする慶舎。

そしてそれを笑顔で引き止める李牧様。


これは趙国のとある日常。


もちろんあのあとカイネから話を聞き、しばらく慶舎と上手く目を合わせられなかったのは言うまでもない。



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