■ 食事会
今日は私とバジオウの家に皆が集まる日。
私は自分で言うのもなんだが、料理が上手い。
その手料理を楊端和様とシュンメン、タジフ、バジオウに振る舞うのだ。
実は楊端和様はともかく、シュンメンとはほとんど話したことがない。
言葉がまだあまり話せないこともあるのだが。
「来たぞ姜麗」
調理場に立つ私の耳に美しい声が聞こえる。
私はすぐに向かった。
いたのは楊端和様。
甲冑は来ておらず、刺繍の施された服を着こなしている。
横にいるのはシュンメンとタジフ。
『いらっしゃいませ!端和様!シュンメン、タジフ!』
「ヨクキタナ」
「ああ、邪魔するぞ」
「・・・!」
「・・・」
案の定タジフとシュンメンの言葉は聞き取れなかった。
おそらく楊端和様と同じようなことを言っているのだろう。
『ちょうど料理もできたんですよ!バジオウ、手伝ってもらえる?』
「モチロンダ」
良い香りの漂う料理をバジオウと共に客間に運ぶ。
雉子の肉を使った炒め物に、空心菜を使った煮物、猪の肉の燻製を使ったつまみに酒、そして手作りの胡餅。
私たちは席に着くと食べ始める。
「それにしてもお主は料理が上手だな。普段やることがないのであれば、我が屋敷にて料理番を務めてはくれぬか」
端和様からのお褒めの言葉に自然と笑みがこぼれる。
『平地でも私の役目に料理があったんです。だから料理が上手くなって』
「信ハ下手ソウダナ」
バジオウの指摘に苦笑いして頷く。
「・・信!・・・」
タジフが嬉しそうに声を出す。
『タジフは信のことが大好きなんだね!嬉しいなー!信に会わせたいよ』
「・・・・・。・・・」
タジフは急に声のトーンを落として話し出す。
どうやら何かを私に謝っているようだ。
「アノ時ハ殺ソウトシテスマナカッタ、ト言ッテイル」
私は納得する。
確かにあの時一番殺気を放っていたのはタジフだったものね。
『いいのよ?私たちも殺される覚悟で行ったんだもの』
私はにっこりと笑う。
「・・アリガトウ」
『た、タジフが平地語話した!』
端和様は酒を口にして笑う。
「あれからバジオウに平地語を習っていたのは知っていたが」
『そうなんですか…』
タジフはこくこくと頷く。
「・・・!」
横にいたシュンメンが声を発する。
バジオウの方を困ったように見ると、訳してくれた。
「咸陽ハオ洒落ナモノガ多イノカ、ト言ッテイル」
『お洒落……?シュンメンはお洒落に興味があるの?』
端和様は胡餅を飲み込んで、話し始めた。
「鳥牙族の一人であるシュンメンはこう見えてお洒落が好きなのだ。しかし山地には何も無いのでな、姜麗にそのようなことを聞いているのだろう」
私は驚く。
『へえ!でも私も咸陽に住んでいたわけではないし、あんまり知らないわ。ごめんね』
信なら多少知ってるかも!
政なら尚更だ。
山地から下りて咸陽に行く時があれば、露店を見るのも悪くない。
私はそう決めて一人で頷いた。
「マタ平地ニ行クノカ」
バジオウの言葉にドキリとする。
『あーっと…だめ?』
「………」
端和様がバジオウの背中をばんと叩き、大笑いする。
かなり酒が回っているようだ。
「お前は過保護すぎるのだ!姜麗のことを少しは信じてやらねば、姜麗は逃げるぞ」
「!!逃ゲル……?」
『端和様!飲みすぎです!バジオウ、私はいなくならないからね!』
おろおろするバジオウと大笑いする端和様。
そしてそれを笑って見つめるシュンメンとタジフ。
しばらくこの騒ぎは続く。
この夜はとても大変だったけれど、楽しかったのであった。
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