■ 小さくなっても大好き

「ね、ねーちゃん!?」

目の前で弟である信が驚く。

あれ、信いつの間にそんなに大きくなったんだろう。

今までは私より少し背が高かっただけだったが、今回は私が見上げるほどだ。

『……信?どうしたの』

あれ、私の声ってこんなに高かったっけ。

「ねーちゃん……ちっさくなってんぞ」

ふるふると震える指で私を指さす信。

『えっ、ええ!?』

自分の手のひらを見る。

とても小さい。

水瓶の中を覗くと、そこには小さな私が映っていた。

『信!どうしよう!』

「もしかして俺がとってきたキノコが原因か!?確かに確かに見たことない柄だったけどよ」

『なんでそんなキノコを食料庫に入れるの!』

こんな姿で説教しても迫力にかける。

私は久しぶりに会いに来た信のためにご飯を作っていた。

もうすぐバジオウも帰ってきて、三人で食事をしようと思っていたのだった。

そして鍋の味見をしたあとに、こうなってしまったのだ。

『そんなことより、隣の部屋にある鍋を早く処分しないと!』

私は慌てて隣の部屋に向かおうとする。

しかし、それは出てきたバジオウによって止められた。

「姜麗、向コウノ鍋の味見シタラ美味カッタゾ」

『あっ』

「あっ」

「エッ?」

バジオウは縮んでいる。

「姜麗カ!?何故小サクナッテイル」

『それそのまま返すね!バジオウも縮んじゃってるんだよ』

私はため息をつく。

信に頼み、鍋は処分してもらった。


「んで、どうするんだよ。ねーちゃん、バジオウも」

椅子に座る信。

私とバジオウも座らせてもらった。

『まずはキノコの毒を消さないと』

「信、ソノキノコ何処ニアッタ」

バジオウは腕を組む。

私はそれを興味深げに眺める。

小さい頃のバジオウ……なんだか見るの新鮮だなあ。

「あー確か北の山にある池の近くだったかなあ」

頭をガシガシと掻く信。

『分かった。そこに行ってみよう!何かあるかもしれないよ』

「姜麗ガ行クノハ危険ダ。俺ガ行ク」

私は頬をふくらませた。

『私も行く!そんな事言ったらバジオウも危険だよ!』

信が口を挟んできた。

「俺が行く!元はと言えば俺が変なキノコ取ってきたからだしな」

バジオウはため息をついた。

「俺ハ今日見回リ当番ダッタ。ソレヲ代ワリニヤレ」

見つかっては大変だからという理由だ。

信はしぶしぶ頷く。


私とバジオウは誰にも見つからないように外の山へ出た。

『うーん、小さくなるって不思議だね』

「ソウダナ」

私たちは自然と手を握っていた。

『なんだか、こんなにゆっくりするのも久々』

「戦ガ続イテイタカラナ」

『ずっとこのままでいいとは思わないけど、私はバジオウと一緒ならなんでもいいな』

そう言って私は笑う。

少し大きめのバジオウの仮面が、恥ずかしそうにそらされた。

「俺モ、姜麗ト一緒ナラ」

私たちはさらに手を強く握りあった。

しばらく歩くと大きな池に出る。

ここは魚も住んでいる。

私たちは池のほとりの木の下に座った。

『もうちょっとこのままいようよ』

身体が小さくなったからだろうか。

やけに眠たい。

幼い頃の子はよく寝ちゃうもんね。

私はバジオウの肩に頬を乗せた。

『少し、眠いね』

「奇遇ダナ、俺モ少シ…眠イ」

バジオウは私の手を自分の膝の上に乗せる。

バジオウの手はとても暖かい。

こども体温とでも言うのだろうか。

『……ねえ、バジオウ』

「ナンダ?」

『小さくなっても、大好き』

「……アア」


私たちはどちらが先というわけでもなく眠りに落ちた。

次に目を覚ました時、目の前には慌てた表情の信がいて、身体は元通りになっていたのだった。



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