■ 看病
「姜麗、朝ダゾ。マダ起キナイノカ」
山の民の朝は早い。
私も早起きは慣れている。
しかし、今日ばかりは違った。
『……バジオウ、ごめん』
喉が痛い。
頭ががんがんする。
そして、身体全体が気怠い。
風邪ひいちゃった!そう笑おうとするが、私の声は掠れてあまり出なかった。
そんな私の声が部屋に響く。
バジオウは部屋に入ろうとする足を止める。
「姜麗……?」
そしてはっとすると慌てて枕元にとんできた。
「ナ、ドウシテ!?昨晩ハ寒カッタカ!?」
そして私の額に手を当てるバジオウ。
必死な様子がなんだか可愛くて、私は困ったように笑った。
『ほんと、なんでだろ。気候には慣れたと思ったんだけど』
ゴホゴホと咳き込むと、バジオウは慌てて台所の奥に消えた。
しばらくたち、戻ってきたバジオウの手には温かい飲み物が。
「山ノ民に伝ワル薬湯ダ。少シ不味イガ、風邪ニハ効クハズダ」
私はゆっくりと寝台から起き上がる。
腕に力が入らない。
バジオウが手伝ってくれた。
手渡された薬湯はほんのり温かくて、私はほっとした。
『バジオウ、ごめんね迷惑かけて』
少し紅潮した頬。
寝乱れた姿。
バジオウはさっと目をそらした。
「アマリ……目ニ良クナイナ」
『?』
私は薬湯に口をつける。
どんなに不味いだろうと心して飲んでみたが、意外と美味しい。
「蜂蜜ヲ入レタカラナ」
バジオウの心遣いに嬉しくなる。
『ありがとう、バジオウ』
私はバジオウの首筋に唇を寄せる。
バジオウはその行為に答えるように仮面をずらした。
そして私が避けていた口での口づけをしてくる。
唇が離れると、私は慌てる。
『風邪が移っちゃうよ……』
「姜麗ノ風邪ナラバ、良イ」
バジオウは仮面を元に戻すと、私の身体を抱きしめた。
バジオウの身体が密着し、暖かい。
『あなたは、私に甘いのね』
私も気怠い身体をバジオウに預けた。
「オ前ダカラダ」
バジオウの優しい声。
私は腕のなかで微笑んだ。
風邪ひいても、悪いことばかりじゃないね。
そう思って、そのまま私は腕のなかで眠りに落ちた。
その数刻後、バジオウの遅さを心配したタジフに見つかってとても気まずい思いをしたのはまた別の話だ。
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