■ 射抜いて
姜燕さんが私の世界にトリップしてきて数日がたった。
『朝ごはんできたよ』
最初はあのキングダムの姜燕が私の世界に来てくれた!と喜んだものだが、年頃の女性の家にずっと男性が住み続けるのは限界があることに気づいた。
私が一番好きなキャラということもあって、喜びは物凄いものがあったのだけど。
「ああ、すまんな」
さすがに現実的にまずいというか……。
というか恥ずかしくてかっこよくてどうしよう!?
もくもくとご飯を食べる姜燕さん。
『えっと……この世界には慣れた?』
「話す箱も今では娯楽的に感じるようになった」
テレビかな……?
私が学校に行ってる間暇なんだろうなー。
今日は学校が休みの日。
私は姜燕さんをつれて弓道場に行こうと思っていた。
家の近くに市立体育館があり、予約さえすれば弓道が出来るのだ。
少しでも感覚を懐かしいと思ってくれたらいいなーと思いながらそれを提案する。
「それは、ありがたいな」
綺麗な顔で微笑まれた。
どうしよう恥ずかしい。
二人で弓道場へ向かう。
私が元弓道部であることをいうと、姜燕さんは喜んでくれた。
姜燕さんはジャージを着ている。
そんな姿もかっこいい。
私が弓道着に着がえて弓道場に向かうと。
『え、ちょっ、まってまって』
的の真ん中の黒い部分が矢で埋め尽くされている。
しかも一つの的は壊れている。
最初に本気で打ったら貫通してしまったのだろう。
二つ目からはちゃんと加減してるのかな。
「遅かったな、もう打っているぞ」
『姜燕さんが中華十弓ってことは知ってたけど、ここまでなのかあ』
これじゃ私の弓の腕なんて恥ずかしくて見せられないよ。
姜燕さんは弓を打つ手を止めてこちらを見ている。
打てということなのか。
わかりましたよ!
弦を引き、放つ。
矢は的の右下の方にかろうじて当たる。
よ、よかったあ……。
「肩に力が入っている」
姜燕さんは私の背中に回り、すっと私の右手に手を添える。
近い、近い!!
「震えている」
『ふ、震えていないって』
恥ずかしいんだよ、気づいて姜燕さん!
「力を抜け。そしてぶれぬように右手を離す」
すっと(必死に)力を抜き、手を離す。
矢は見事にど真ん中に。
『や、やったー!!』
「見事」
私は姜燕さんが近くにいることを忘れて喜ぶ。
近くに姜燕さんの顔があって私は固まった。
『うわっ』
「うわ、とはなんだ」
姜燕さんがかっこよすぎるのが悪いんですー!と私は顔を赤くさせた。
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