■ 慌てずゆっくりと、ね

『もう!起きてくださいませ!』

そう言って俺の身体はゆすられた。

その刺激によって、俺は目を覚ます。

「……おはよう、姜麗」

ふぁ…と軽く欠伸をして、俺は起き上がろうとし た。

そんな俺の腕の中で姜麗が苦しそうにしている。

なるほど、寝ているあいだに姜麗を抱きしめていたらしい。

「悪い!全く気づかなかった」

そう言って姜麗を解放する。

軽く乱れた着物をさっと直し、姜麗は俺に向き直った。

『お見苦しいところをお見せしました。おはようございます』

そう言う姜麗に笑みがこぼれる。


俺達は先日婚約者として初めての夜を迎えた。

そこから世継ぎのことを考えて毎日同じ寝台で寝ているのだが、姜麗のことを考えると毎日だと負担がかかる。

だから昨晩は添い寝をしていたのだった。

『あの、昨晩は、よろしかったのですか 』

気恥ずかしそうにする姜麗。

俺は困ったように笑った。

「毎日だと姜麗も辛いでしょ?世継ぎのことはゆっくりでいいんだからさ」

『し、しかし私には蒙家に嫁ぐものとして』

姜麗はあてがわれた婚約者ではない。

俺が好きで選んだ者だ。

だからこそ身分は俺よりかなり低いし、侍女から虐げられることもあるという。

そのことを考えると、世継ぎが大事なんだろうな。

「またいじめられてる?」

『そ、そんなことありません!』

「なら俺が信じられない?子供を産まなきゃ俺の心が離れるとでも思ってるの?」

『そんなこと……』

姜麗は泣きそうだ。

少し言い過ぎちゃったかな。

俺は姜麗をきつく抱きしめた。

「そんなことないって。だから慌てずにゆっくり、ね?」

姜麗はこくこくと頷く。

俺は姜麗の額に口づけをした。

寝乱れて少しボサボサの髪を恥ずかしがるようにする姜麗に、さらに愛おしさを感じた。



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