■ 美味しいご飯を
『白麗様、お待ちしてましたよ』
そういって俺に向かって笑いかけてくるのは飯屋の看板娘、姜麗。
この姜麗を見るためだけに飯を食べに来るものもいるという。
「最近来ていなかったな」
『白麗様は千人将ですもの。このような大衆食堂に来られなくても、屋敷で豪華な食事が待っているのでしょう?』
姜麗は美しい笑みで冗談をいう。
俺もそうだな、と軽く笑った。
『さあ、いらっしゃいな。今日は良い猪肉が入っていますわ』
そう言って俺を席に座らせる姜麗。
俺はさきほどの姜麗が言ったように、新鮮な猪肉の大蒜炒めの載せられた麺を頼んだ。
にこやかな笑みを浮かべてほかのお客の接客をする姜麗を目で追う。
こんなところ項翼に見られたら笑われるだろうな、とそんなことを考える。
一人の客が食べかけの料理を持って私のところに近づいてくる。
「貴方は白麗千人将ではないですか。私は臨武君に仕える者です!まだしがない百人将ですが」
俺は軽く会釈する。
視線の先に気づいたのか、百人将の男は笑った。
「白麗千人将も姜麗目当てですかい。あの娘は本当に可愛いですよね」
そういう男の目も姜麗を追っている。
やれやれ、敵は多いようだな。
『おまたせしましたわ、白麗様』
そう言って運ばれてきた料理。
香ばしい香りが俺の鼻をとおり、俺の食欲を促す。
「ああ、ありがとう」
『ゆっくりしていってくださいましね』
男はもともとしていた食事を終え、去っていった。
もう少し姜麗と話したかったな、と残念に思いながら俺は食事を始める。
男がいなければもっと話せたものを。
柔らかく煮付けられた猪の肉を噛みながら、ちらりと姜麗を見ると目が合う。
俺は軽くむせそうになる。
咳き込みながら水を注ごうとすると、慌てた姜麗が水を持ってくる。
『大丈夫でございますか?』
「あ、ああすまない」
『私が見ていたから驚いたのでしょう?食事中にごめんなさいね』
「いや、俺もお前を見ていた」
はっと俺は気づく。
今俺はとても恥ずかしいことを言っているんじゃないのか。
「み、見ていたといっても偶然だからな!」
きっと俺の顔は赤くなっているだろう。
姜麗の方を見ると、少し顔を紅潮させている。
『白麗様に気にかけてもらえるなんて、嬉しいですわ』
頬を染め、手で口元を隠し笑う姜麗。
そんな姜麗を見て、俺は目をそらせなかった。
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