週末になった。
寮のベッドで目を覚ました清香は、サラがいないことに気づく。
『そっか、今日試合だっけ…』
眠い目をこすりながら身体を捻る。
どうもアメリカのベッドは腰が痛くなって困る。
生活に慣れるのが大変で、事前にアメフトのことを勉強出来なかった清香。
手早く朝食を済ませると、大学内の図書館へと向かった。
『試合は昼からだよね』
すでにユニフォームを着ている選手たちがちらほら校内に見受けられる。
開始時間に不安を抱きつつ、アメフト関連の本を探す。
分かりやすそうな本を五冊見つけたとき、清香の携帯にメールが来た。
図書館内では携帯が禁止なので、こそっと確認するとサラからのメール。
試合は昼からだが、その前にチアのパフォーマンスと合同練習が行われるらしい。
清香は慌てて貸し出し手続きを済ませると、その本を抱えたままグラウンドへと急いだ。
昼ご飯はサラが用意してくれているらしい。
そこの角を曲がるとグラウンドが見えるはずだ。
清香はスピードを上げた。
そして角を曲がった瞬間だった。
『うわっ!!!』
「!?」
ちょうど向こうからも人が来ていたようで、慌ててその人物を避ける。
ぶつかることはなかったので相手に怪我はさせなかったが、避けた反動で足をひねった清香はその場に倒れる。
「大丈夫か」
落としてしまった本を拾ってくれる人物。
ユニフォームを着ている。
選手なのだろう。
「この本は…」
拾ったうちの一冊をしげしげと眺める人物。
「お前、アジア人か」
『日本ですけど…』
その人物は拾った本を渡してくれた。
「アメフトに興味があるのか」
『今日の練習試合をみようと思って。予備知識なしじゃどんなスポーツも面白くないですから』
「それはそうだな」
清香を立たせようと手を差し伸べるその人物。
清香はその手をとろうとしたが、足が腫れていることに気づき躊躇した。
「怪我したのか」
『しばらくしたら治りますよ』
その人物は清香をにらむ。
「アメフト選手にとって怪我を甘く見ることは選手人生を捨てるのと同じだ」
そういうと、ヒョイと清香を持ち上げる。
俗に言うお姫様だっこだ。
『ななな!?』
「グラウンドに行くんだろ?俺も大した用じゃなかったし、ついでに連れて行ってやるよ」
アメリカ人に謙虚は通じない。
そう知っていた清香は小声で、ありがとう…と呟くことしかできなかった。
20130705
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