荷物をバスの前に運んでいる清十郎が清香を見て尋ねる。
「そのジャージは誰のものだ?」
清香は自分が着ているジャージを眺める。
そうだ、忘れていた。
伊知郎に借りてたんだっけ。
それもこれも阿含が悪いんだ!
『これね!ちょっと肌寒いから伊知郎に借りてたんだけど』
「以前着ていたものは」
『ファンから隠すために春人に被せちゃって』
「なるほどな」
納得してくれたらしく、荷物を荷出係の運転手に手渡す清十郎。
うまくごまかせたのだろうか。
清香は不安になる。
そっとその場を離れ、少し遠くにいた高見の元へと走った。
『伊知郎、このジャージ明日洗って返すね!』
「洗うって…羽織っているだけじゃないか。別に気にしなくてもいいのに」
『いや、私が気にするから』
高見は先ほど痣が見えた方の腕をジャージ越しに見つめる。
「金剛阿含かい?」
『!!』
高見は王城で、清香が神龍寺にいたと知っている数少ない人物の一人だ。
しかしまさか当てられるとは、と清香は苦笑する。
「その反応は、やっぱりね」
『伊知郎に隠し事は出来ないね』
高見は眼鏡をクイと上げる。
「無茶しないでくれよ。今や君は王城の一員なんだから」
『大丈夫、心配してくれてありがとう伊知郎』
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