19th down
清香は急にトーンを落とし、目を伏せた。

『ちょうど、その頃だった』

「なにがだ」

雲水は清香の様子を心配そうに見守る。

『恩人が、消えたの』

雲水は訳が分からないといった表情で清香をみる。

『私もワケが分からなかった。でも
、ある日突然彼は消えた』

雲水は“彼”という単語に反応する。

「その男が消えて、神龍寺に来たのか」

清香は頷く。

『彼の年齢は知らなかった。彼は日本人だったけど、アメリカでは日本のように年で人を判断することがないから、お互いに聞くこともなかった』

雲水はなんとなく清香の言わんとすることが分かった気がした。

『だから、私は以前すんでいた関東地方の最強校に来た』

「関東最強校に来れば、色々な学校と戦えるってことか」

清香はさすが、と呟いた。

『彼は強かったし、絶対にどこかに入学してると思って』

「だから男装してまで入学したんだな」

清香は少し笑顔を作って言った。

『実は仙洞田先生にお願いして、帰国した14歳のとき、すぐに神龍寺に入ったの』

「え」

『仙洞田先生の親戚って偽って寮に住まわせて貰っていて』

雲水は頭を抱えた。

なんて行動力だ…。

「では山伏先輩達とは?」

『実は一年のときから知り合いだったよ』

「それなのに清香が女と気づかなかったのか」

清香はいつもの笑顔に戻る。

『雲水は私が女だって気づいた最後の人だよ?』

「ついでに、神龍寺では何人に気づかれたんだ」

清香は悩んだ末言った。

『五人かな?』

「ちなみに、誰だ?」

『一番に気づいたのは、今は転校しちゃった山伏先輩と同期の人だから、知らないと思うよ?二番目は玄奘かな』

釜田玄奘、神龍寺のRBだ。

雲水は目を見開く。

「俺はあのオカマに負けたのか…?」

『次が一休でしょ?そして、一休の反応で阿含が気づいた』

雲水はため息をついた。

「ちなみに俺は阿含の反応で感づいた」

清香は笑い出す。

『玄奘は仕方ないにしても、一休に気づかれるなんて予想外だったな』

「一休はどうやって気づいたんだ?思いこみの激しさから、神龍寺に女がいるなんて思わないと思うんだが」

清香は急に顔を真っ赤にして慌て出す。

『べべべ別に理由なんて雲水知らなくてもいいでしょ!?』

雲水は一つ理由が思い当たった。
一時期一休と清香がギクシャクしていたのはこのためか。

あ!と何かを思い出し、その場にへたり込む清香。

どうしたと慌てる雲水。

『一休とさっき喧嘩しちゃって…嫌われた』

「感情豊かだから。しかもプライドも高いから仕方ないのかもな」

清香はふと腕時計を見る。

ハーフタイムは半分をきっていた。

『や、やばっ!私ちょっと用事があるんだった!』

「ああ。話してくれてありがとう」

雲水は右手をふっとあげる。

『雲水!阿含にさっきのこと聞かれても知らない振りしてよね!?』

雲水はああ、と答える。

それに安心したように清香は駆け出した。

その後ろ姿が、見えなくなるまで雲水は見つめていた。


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