清香は急にトーンを落とし、目を伏せた。
『ちょうど、その頃だった』
「なにがだ」
雲水は清香の様子を心配そうに見守る。
『恩人が、消えたの』
雲水は訳が分からないといった表情で清香をみる。
『私もワケが分からなかった。でも
、ある日突然彼は消えた』
雲水は“彼”という単語に反応する。
「その男が消えて、神龍寺に来たのか」
清香は頷く。
『彼の年齢は知らなかった。彼は日本人だったけど、アメリカでは日本のように年で人を判断することがないから、お互いに聞くこともなかった』
雲水はなんとなく清香の言わんとすることが分かった気がした。
『だから、私は以前すんでいた関東地方の最強校に来た』
「関東最強校に来れば、色々な学校と戦えるってことか」
清香はさすが、と呟いた。
『彼は強かったし、絶対にどこかに入学してると思って』
「だから男装してまで入学したんだな」
清香は少し笑顔を作って言った。
『実は仙洞田先生にお願いして、帰国した14歳のとき、すぐに神龍寺に入ったの』
「え」
『仙洞田先生の親戚って偽って寮に住まわせて貰っていて』
雲水は頭を抱えた。
なんて行動力だ…。
「では山伏先輩達とは?」
『実は一年のときから知り合いだったよ』
「それなのに清香が女と気づかなかったのか」
清香はいつもの笑顔に戻る。
『雲水は私が女だって気づいた最後の人だよ?』
「ついでに、神龍寺では何人に気づかれたんだ」
清香は悩んだ末言った。
『五人かな?』
「ちなみに、誰だ?」
『一番に気づいたのは、今は転校しちゃった山伏先輩と同期の人だから、知らないと思うよ?二番目は玄奘かな』
釜田玄奘、神龍寺のRBだ。
雲水は目を見開く。
「俺はあのオカマに負けたのか…?」
『次が一休でしょ?そして、一休の反応で阿含が気づいた』
雲水はため息をついた。
「ちなみに俺は阿含の反応で感づいた」
清香は笑い出す。
『玄奘は仕方ないにしても、一休に気づかれるなんて予想外だったな』
「一休はどうやって気づいたんだ?思いこみの激しさから、神龍寺に女がいるなんて思わないと思うんだが」
清香は急に顔を真っ赤にして慌て出す。
『べべべ別に理由なんて雲水知らなくてもいいでしょ!?』
雲水は一つ理由が思い当たった。
一時期一休と清香がギクシャクしていたのはこのためか。
あ!と何かを思い出し、その場にへたり込む清香。
どうしたと慌てる雲水。
『一休とさっき喧嘩しちゃって…嫌われた』
「感情豊かだから。しかもプライドも高いから仕方ないのかもな」
清香はふと腕時計を見る。
ハーフタイムは半分をきっていた。
『や、やばっ!私ちょっと用事があるんだった!』
「ああ。話してくれてありがとう」
雲水は右手をふっとあげる。
『雲水!阿含にさっきのこと聞かれても知らない振りしてよね!?』
雲水はああ、と答える。
それに安心したように清香は駆け出した。
その後ろ姿が、見えなくなるまで雲水は見つめていた。
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