それからの王城のプレーは基本に忠実だった。
ショートパスとランでゆっくりと進んでいく。
なんの小細工も必要ない。
相手のパスミスはインターセプトし、自分の得点にする。
あっという間に点差は開き、得点は35-6。
前半が終了し、ハーフタイムに入る。
清香は庄司に一言いい、ベンチを離れる。
泥門ベンチの蛭魔の元へ行くためだ。
清香が観客席の後ろを歩いていると、ちょうど男子トイレから出てくる雲水と会う。
「清香…」
『雲水!よかった、さっきの約束守れたね』
二人は場所を移す。
「何故、俺に相談してくれなかった?」
『あー、そのこと?』
雲水は真っ直ぐに清香を見つめる。
その視線に耐えきれず、清香は目をそらした。
『…絶対に反対されるから』
「俺は反対なんてしない」
『いや、今から話すことを聞いたら絶対にその考えは変わると思う』
清香は雲水に転校した理由を話す。
天才の弟と並ぶため。
弟をサポートするだけではなく、同じ位置から共にアメフトを支える。
天才の弟を認め、一歩下がってサポートに徹する雲水とは真逆だ。
雲水の顔は次第に暗くなっていった。
「そういうこと、か」
『ほらね』
雲水の苦虫を噛み潰すような顔を見て、清香は苦笑した。
その表情ですぐに分かる。
雲水は清香の転校に反対だということが。
「天才にかなわないことくらい、お前も分かるだろう?進の姉ならば、しかもお前は女だ」
『女だからって、天才と絶対に並べないわけないでしょ』
雲水のセリフに苛立つ清香。
清香は女だからといって弱く見られるのが一番嫌いだった。
『確かに、女だから力は弱い。そんなこととっくに分かってる。天才に勝てないこともね』
清香は俯いた。
『天才の弟と比べられるのが嫌で、私はアメリカに逃げた。でもアメリカでは女なんてことを気にせずに私を必要としてくれた人がいた』
「!」
清香の発言に目を見開く雲水。
『そのアメリカの恩人以外にアメリカに行った理由を話したのは雲水が初めてだよ』
「逃げた…のか」
清香は頷く。
『でもね、勝てなくてもいい。私は気づいた。私は清十郎に必要としてほしかっただけなの』
雲水は黙って聞いていた。
『そして、必要としてもらえる方法がやっと分かった』
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