『はあ、まだ腕が痛いし』
聖泉球技場に着き、トイレに入ってジャージのそでをまくる。
『うわ…』
案の定痣ができていて、顔をしかめる。
あのときの阿含、本気だった。
背筋が粟立つ清香。
清十郎に痣のことがバレたら追及されるにきまっている。
『バレないようにしないと』
トイレから出て、王城側のベンチへ向かう。
王城の選手達は皆すでに着替え終わっていて、軽食を取り始めていた。
庄司の元へ行くと、遅かったなと言われ、苦笑する清香。
「あ、清香さん!おはようございます」
『おはよう小春。この軽食、いつもなの?』
小春は失笑した。
「私も初めてなので、さっき高見さんに聞いてきました。華族っていう料亭のバランスのとれたメニューらしいですよ」
清十郎はきっと食べないだろうな、と考える清香。
自分に必要な栄養分を分かっている清十郎はきっと無駄なものは食べようとしない。
それが監督命令であっても。
「清香と若菜はベンチでサポートだ。アメフトに怪我人は付き物だからな」
『はい!』
桜庭が知らないおじさんに呼ばれ、インタビューを受けに行く。
小春も気づいたのか、清香にそっと耳打ちした。
「あれはミラクル伊藤さんっていうんです。ジャリプロの社長兼桜庭さんのマネージャーをやってるみたいですよ」
『ああ、モデル会社ね』
清香は肩をひねる。
久しぶりにバイクに乗ったせいか、腰と肩が痛い。
『今日マッサージでもするかな』
そんなことを考えていると、大田原が何かに気づく。
その視線の先には_
『神龍寺…』
「やはり来たか」
いつの間にか近くに来ていた清十郎が呟いた。
「うまくいったのか」
『う、うん…一応』
掴まれていた腕がまだ痛いが、あれは阿含の冗談なんだと言い聞かせ、清香は笑顔をつくった。
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