4th down
鼻をつまんでいると、清十郎が起き上がり、清香を見た。

「大変だな」

『まあね、っていうか双子って言っちゃった』

「そうか」

またも沈黙。

それを破ったのは桜庭だった。

「今俺50kgだったから、記録お願いしてもいい?」

『うん、分かった!』

そんな桜庭と清香を見て、清十郎が口を開いた。

「俺は今から測る。清香、記録を頼む」

『分かった。ちょっと待って、二人分の記録用紙取ってくるから。春人はドリンク取ってくるから水分補給してよね!』

そういうと、清香は走り出す。

その後ろ姿を見る清十郎と桜庭。

「進、やきもちやいた?」

「いや」

桜庭は清十郎の眉が微かに動いたのを見過ごさなかった。

『ごめん!はい、春人はこれ。じゃあ清十郎、測ろっか』

清十郎はベンチに寝ころぶと、呼吸を整え始める。

「進、何kgにする?」

「140kg」

桜庭と清香は息を飲んだ。

この部で最高は大田原の135kgその記録を超えようというのだ。


セットし終え、清十郎はバーベルを持ち上げる。

『うわ…』

自然と口に出る感嘆の声。

清十郎はバーベルを持ち上げた。

記録用紙に140kgと書き込む。

「すごいな、相変わらず」

桜庭はドリンクを手に持ち、感心する。

「ばっはっは!ついに抜かれたか!」

大田原がそれに気づき、話しかけてきた。

「パワーではホワイトナイツ一の看板も降ろさにゃいかんな!」

おっと、屁。といいながら、ドカンとぶちかます大田原。

あれは大田原さんのせいだったのか、と鼻をつまむ清香。

清十郎は汗を拭って、大田原に言った。

「数字など…力だけでは勝てぬ世界です」

大田原は鼻をほじりながら清十郎に返答する。

「お前は力だけじゃないだろ、高校最速の脚もある」

そして、ばっはっは!と先ほどのように笑い出す。

「進のタックルで止まらん敵なんぞおらんよ。『スピア』ってみんな呼んでるぞ、ただのタックルが必殺技扱いだ!」


以前清十郎の練習を見ていて思った。

確かに清十郎の瞬発力はすごい。

それにこの力だ。

そうそうは突破などされないだろう。

しかしそれは自分より脚が遅い場合。


「不遜な言い回しになりますが…自分はこれまで自分より速く動く人間を見たことがありません」

清十郎は呟く。
そして、ちらりと清香を見た。

「だが、もしそんな男が存在するなら、触れることができない程素早い男が目の前に現れたら」


清香は目を伏せた。


「触れもしないスピードには、どんなパワーも通じない」




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