『お邪魔しまーす…』
一日やそこらで部屋が片付くはずもなく、今日まで清十郎の部屋で寝ることになった清香。
前日のように毛布と枕を運び込む。
黙り込む二人。
この姉弟にとって沈黙というのは当たり前のことだった。
『ねえ、清十郎』
小指でダンベルを支えていた清十郎は、なんだと呟く。
『あの日のことなんだけど』
「泥門戦か」
さすが双子というべきか。
今までも二人の考えが食い違うことは少なかった。
『私、あの場にいたんだ』
「!」
清十郎はダンベルを床に下ろす。
「では、見たのか」
『うん』
やはり、清十郎は気づいていた。
「泥門は選手層が薄いが、頭脳の蛭魔がいる。俺が偵察に来ていたと知っていただろう」
『気づいてたよ。春人に女子をけしかけたのも、作戦だったみたい』
ま、その結果清十郎はビデオ壊しちゃったんだけどと笑うと、清十郎に笑い事ではないとたしなめられる。
「俺がいなくなったと分かると、選手を追加したのか。もしくはそれまで走らせていなかったのか」
『正解、後者だよ。清十郎達がいなくなる直前にアイシールドつけた21番が出たの覚えてる?』
清十郎は黙り込む。
そして、はっとする。
「思い出した。エースランナーの30番が退場したときだな」
『アイシールド21』
「…アイシールド21?」
清香はうつむいた。
『私が中学校に行かずにアメリカに留学してたとき、アイシールド21に会ったの』
「ではその泥門の21番はそのときの」
『そんなはずない!体格が違いすぎる。泥門の21番は筋肉も全くついていなかった』
清十郎は声を荒げた清香に驚く。
『それに、ヤマトは消えた…』
「ヤマト…?」
はっと口をつぐむ清香。
なんでもないと笑ってごまかした。
『あー!今の忘れて!!何でもないの!』
「…」
清十郎は立ち上がる。
そしてきょとんとする清香の前にしゃがみこむ。
「無理するな」
その清十郎の一言に思わず唇を噛みしめる清香。
「ありがとう…」
清十郎は右腕をふっと上げる。
そして5秒ほど空中に停止させて、悩んだ末におずおずと清香の頭の上に乗せた。
撫でているつもりなのか、ポンポンと清香の頭を叩く。
少し痛かったが、そんな清十郎の気づかいが嬉しくて、清香は目を細めた。
__to be continued
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