『ちょっと…どうしよう』
清香は左手に弁当の包みをさげて立ちすくんだ。
はっきりいって王城で迷子になって誰にも頼らずに自分の教室に戻れるという可能性はゼロに近い。
『清十郎…来てくれないかな』
無理な願望を呟く清香。
神龍寺にいた頃は時間ごとに全員が一斉に場所から場所に移動していたので迷うことなどなかった。
まず周りに清香のことを知っている女子がいなかったのだ。
清十郎の姉として野次馬に囲まれることもなかった。
もちろんアメリカでも然り。
『ま、先生には迷いましたって言えば許してくれるかな』
生徒手帳をもっていれば地図が載っていたのだが、貰った瞬間にカバンに放り込んだ清香。
今更ながらに後悔する。
仕方なく校舎に向かい、歩き出した清香。
すると正門付近から聞き覚えのあるエンジン音が聞こえる。
嫌な予感がして早歩きになる。
しかしすぐ後ろに人が立つ気配。
誰かは振り返らずとも分かる。
『こんなところで何やってるの』
「あー?てめぇに会いに来てやったんだよ。てめぇこそ授業受けないでサボリか?」
後ろにいたのは阿含。
振り向くとサングラスをとる。
「てめぇの授業が終わるまで暇するとこだったぜ。サボってんならどっか行くか」
『阿含じゃないんだからサボらないし。そっちこそ雲水が怒るんじゃないの?』
清香の言葉を聞いて思い出すように話し出す阿含。
「今朝の座禅のときにジジイが皆にてめぇのこと話したらしいぜ。さっき雲水から電話が来てな」
清香はサーッと血の気が引く。
仙洞田先生に念を押し忘れたのだ。
『嘘っ、先生は…雲水はどうだった?』
「雲水の野郎取り乱しやがってよ。お前は知っていたのかって言われたから肯定しておいた」
『阿含!!雲水を煽らないでよ!』
頭を抱える清香。
いずれ言おうとは思っていたが、こんなに早くに言いに行くことになるとは。
『一休はどうだった?』
「連絡ねえな」
『…今週末に事情説明に行くよ』
一休と雲水のことを考えると気が重すぎる…と落ち込む清香。
「あぁ!?今週末か?ククッ…楽しみにしてるぜー」
去っていく阿含の背中を見送りながら、清香は肩を落とした。
『うう…どうしよう…』
そう呟いたとき昼最初の授業が終わったチャイム音が響き渡った。
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