広場に向かうと、馬小屋から銃が伸びてきた。
清香はその方向を向いた。
銃の持ち主はもちろん蛭魔妖一。
「何しに来た」
『モン太とセナが見えただけー』
そう言って遠目からセナの様子を見る。
どうやらどぶろくさんがセナに何かを教えようとしてるみたいだね。
そう考えながら清香はモン太の方へ歩いた。
すると声が聞こえてくる。
「進に勝とうとしてんだって?」
その言葉に反応する清香。
進……清十郎だ。
「俺を抜いてみな。見込みがあるか見てやるよ」
セナはボールを脇に抱え込む。
そして、勢いよく飛び出した。
加速し、どぶろくが左に向かうのを見て素早く右へカットした。
「おおー!すげー曲がり!行ったー!!」
モン太は叫ぶ。
しかしどぶろくはセナにすかさずタックルする。
そりゃそうだ。
セナにはまだ自分がわかっていない弱点がある。
セナは唖然としてショックを受けている。
どぶろくは説明を始める。
「ちょっとしたコツでな、お前がいくら速くても関係ねえ」
そして続ける。
「まともな守備ならアイシールド21の致命的な弱点を絶対見逃さねえ」
その通りだ。
清香は頷いた。
清十郎やパンサーはすでにその弱点に気づいている。
「このままじゃお前は進に勝てねえ」
どぶろくはモン太の横に立っていた清香の存在に気づく。
「ん?お前誰だ?」
モン太は説明を始める。
「あ、この人は清香さんって言うんす!王城のマネージャーなんっすよ!」
どぶろくは王城という言葉を聞いて片眉を上げる。
「ほー。守備の王城のマネージャーさんが見てもこいつの走りはさすがに分からんだろう」
どぶろくはそう言って笑う。
清香は自己紹介をしながら答えた。
『私は王城のトレーナー兼マネージャーなんで、さすがに分かりますよ。酒寄どぶろくさん』
どぶろくは目を見開く。
「お前、俺のことを知ってんのか」
え!?え!?と互いに顔を見合わすセナとモン太。
蛭魔はめんどくさそうにその会話に割り込んできた。
「テメェ敵のくせになにアドバイスしようとしてんだ」
そう言ってケケケと笑う蛭魔を見て清香はため息をついた。
『アドバイスはしないよ。セナ、もう一回私の前でその走りしてみてくれる?今度は私が止めるから 』
そう言って私は構える。
蛭魔の眉がぴくりと動く。
「ちっ……」
「清香さんの前で……?で、でも」
どぶろくは清香のフォームをみて何かを察したようだった。
「いいじゃねぇかセナ、やってみろ」
そう言われ、セナはもう一度懐にボールを抱え込んだ。
清香はすっと息を吐くと、走り出したセナを目で追う。
セナの動き。
右足を少し左側に踏み出す。
これは左に行くと思わせるフェイント。
そして左足を勢いよく反動をつけて無理矢理右側に運び、方向を切り替える。
その瞬間。
ほんと一瞬だけど。
止まるんだよね。
『っらぁ!!!』
清香は勢いよくタックルをした。
セナのお腹に清香の頭がクリーンヒットし、セナはうずくまる。
セナは驚いていた。
痛さより先に驚きが勝ったのだ。
「なんで……清香さんが止めれるんスか」
モン太がセナの気持ちを代弁するかのように呟いた。
その言葉は清香の耳に届いた。
『分かった?セナ。私みたいな素人に止められるんだよ。清十郎に止められないわけないでしょ』
清香は不敵に笑う。
もちろん挑発めいたことを言ったのはわざとだ。
清十郎はとっくに気づいているその弱点を克服してもらわなければ面白くない。
「清香さん……すごい……」
セナは絞り出すように言った。
清香はにっこり笑うとセナに右手を差し出した。
『ごめんね、セナ。清十郎の真似して勢いよくタックルしちゃった』
もちろんこれも嘘。
ノートルダム付属で習ったことを小出しにしただけだ。
「いえ、進さんのタックルは肋骨が折れそうですから」
そういって笑うセナ。
清香は冷や汗を出した。
『清十郎のタックルなんて、食らいたくなんかないよね』
「あはは……そうですね」
つまらなそうな顔でその様子を見つめる蛭魔。
そのことを清香が気づく事は無かった。
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