テキサスに到着する。
サラは慣れているようでスイスイと人ごみを抜けて、ターミナルから出る。
清香は急いで追いかけた。
「キヨカ、どこか行きたい場所はある?」
『そうだなー!泳ぎたい!せっかくいい天気だしね』
サラは賛成する。
私が水着選ぶわ!とはしゃぐ姿を見て少し後悔する清香。
とりあえず海岸沿いの店が沢山並んでいる通りに行った。
『…サラ、それはない』
「どうして?あなたかなりスタイルいいし、似合うと思うわよ?」
サラがこちらに見せてきたのはひらひらのレースがついたパステルイエローのビキニ。
かなり可愛いが、清香は少し苦笑いをする。
『私には可愛すぎるっていうか…』
「仕方ないわね、下は妥協してショートパンツタイプにしてあげるわ」
そう言ってデニム色のショートパンツタイプの水着を手に取るサラ。
どうやら断ることはできないようだ。
それを購入した後、サラは自分のビキニを買う。
さすがサラだ。
オレンジ色の胸元をかなり強調するビキニだ。
それを海の家のような場所で着て、上からパーカーを羽織る清香。
「そういえば泥門の皆とはもう別れたのよね」
『その予定だよ。アメリカ横断まで一緒に行く理由はないからね』
正論ね、と笑うサラ。
「それにしてもどうして上にパーカー着ちゃうのかしら、せっかくの水着が見えないじゃない!」
『だって、日焼けするし…』
「日焼け止め塗れば大丈夫よ!ほら脱いで!」
サラがパーカーを脱がそうとこちらに手を伸ばす。
それをよけながらビーチの中に入ってゆく。
そのとき、アナウンスが響き渡る。
“日本の観光客が大番狂わせ!さあ、いよいよ決勝戦だー!!”
『何かあってるのかな』
サラは手を引っ込め、アナウンスの方を見てそちらを指さした。
「ビーチフットボールみたいね、行きましょ」
スキあり!とパーカーをとるサラ。
清香は軽く叫ぶと仕方なくパーカーを諦めた。
会場を覗くと、タトゥーをいっぱい入れた軍団とセナたちが戦っていた。
『面白そうだねー』
セナたちが作戦会議をしている方に向かうと、まもりに声をかける清香。
『まもりー!私も入っていい?』
まもりは清香の姿を見るや否や嬉しそうに顔をほころばせた。
「清香ちゃん!その水着可愛いわね!」
『えっ』
自分が水着だったことを忘れていた清香。
とっさに顔を赤くする。
「おや、また会ったね」
テンガロンハットをかぶったキッド。
『え、えっと、さっきぶりだね』
苦笑いをしながらサラの持っているパーカーを眺める清香。
サラはニコニコ笑っているが、確信犯だろう。
まもりと清香はバトンタッチをし、交代する。
「キミは王城のマネージャーだろう?戦えるのかい」
キッドは心配そうに清香を見る。
ケケという笑い声が聞こえてきた。
嫌そうな顔でそちらをみる清香。
「こいつは元ノートルダム大附属で41番張ってたラインバッカーだ」
その声は蛭魔のものだった。
キッドは清香を見て目を見開く。
「へえ、見かけによらないね」
『そうかな?でも試合には出たことないんだけどね』
プレーが始まる。
セット位置に着き、キッドのショートパスを受け取る清香。
清香は前を見た。
攻撃の練習はほとんどしたことがない。
しかし今の清十郎の練習をコーディネートしているのは清香だ。
清十郎が攻撃に加わるために、必要なことはすべて頭に入れていた。
清香は加速する。
スピードは清十郎ほど速くはないが、女子にしては速いほうだと思う。
素早いカットと手で相手をかき分けながら抜いてゆく。
目の前に突然ディフェンダーが現れた。
清香は左後ろに目をやる。
そこにはノーマークのモン太が上がってきていた。
『モン太!』
バックパスでモン太にパスをすると同時に、モン太がエンドゾーンへ。
“タッチイーン!!!”
アナウンスが響き渡った。
ハイタッチするモン太と清香。
皆のところに戻るとキッドは困ったように笑っていた。
「まいったね、かなり強いじゃないか」
『そんなことないよ。モン太がいないと負けてた』
蛭魔があとは任せとけ、と言ってきたので交代する。
サラの横に行くと勢いよく抱きつかれた。
「キヨカさすがね!カッコよかったわ!」
ここからの試合は一方的だった。
キッドと蛭魔の二人の素早いパス、セナの高速ラン、モン太のキャッチ、鉄馬の爆走であっという間に勝ってしまった。
『お疲れ様!みんな!』
「ケケケ当然だな」
蛭魔は汗をほとんどかいていない。
泥門メンバーがとある人物と話し始める。
どぶろくだ。
かつて二本刀と呼ばれた選手だ。
清香はちらりとみるが、キッドがこちらを見ていたのでキッドの方に話しかける。
『キッド、どうしたの?』
「いや、さっきの走り…誰かに似てるなと思ってね」
清香は軽く笑ってキッドの目を見据えた。
『例えば?』
「そうだね、進清十郎とか…ね」
口角を上げるが、キッドの目は笑っていない。
『あまり広めないでね?私の名前が進清香ってこと』
キッドはテンガロンハットを深くかぶり直した。
「ああ、分かってるさ」
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