7月20日、地久フィールドにて日米戦が始まる。
清香は16時から王城に行き、王城メンバーの筋トレのサポートをしていた。
ここから地久フィールドまでは少し遠いので、17時からタクシーでフィールドに行くことにしていたのだ。
アポロに観戦しに行くと言うと、タクシー代を出してくれたのだ。
『清十郎、今何キロ?』
「今のウエイトは100kgだ」
『そっか、これが10回上がるんだっけ。了解』
手元のバインダーに記録を残しながら汗をかいている清十郎にドリンクを手渡す。
ドリンクを受取りながら清香を横目で眺める清十郎。
「今日は本当に見に行くのか。テレビでもいいのではないか」
『せっかく妖一からチケット貰ったんだもん。アポロさんからのタクシー代もちゃんと使わないといけないしね!』
清十郎はドリンクを床に置き、そうかと呟く。
『今日は伊知郎と春人と一緒にテレビで見るんでしょ?なにかあれば二人に連絡するからさ』
「分かった」
時間になり、清十郎はシャワーを浴びに行くついでに見送りに来てくれた。
『ありがとうね!行ってきます!』
「ああ」
呼んでいたタクシーに乗り込み、目的地を告げる。
外にいる清十郎に手を振るともちろん手を振り返すような事は無かったが、かわりに頷いてくれた。
30分ほどで地久フィールドにつき、お金を払う。
タクシーの運転手の背中に“日米決戦 アメリカンフットボール 7:00〜 地久フィールド”という手書きの張り紙がしてあったのだが、見て見ぬふりをする。
こんなことをするのはおそらくあの人しかいない。
『妖一もよくやるよね』
タクシーが過ぎていくのを見送ってから、チケットを持ってフィールドに入る。
優待席と書いてあるチケットを受付の男性に見せると、サーっと青ざめたあとにレッドカーペットとともに案内される。
『妖一…なにしたの』
ケケケという笑い声が聞こえた気がした。
案内されたのは放送席の隣の席。
いわゆる試合全体が見える席だ。
『いいところだねー』
恐れ多いです!という声とともに色々な食べ物や飲み物を持ってくる受付の男性。
『えっと、よ…ヒル魔くんになに言われたのか知らないけど、気にしなくていいからね』
受付の男性は横の空いたスペースに簡易テーブルを広げ、持っていた飲食物を並べている。
清香のその言葉に安堵した表情を見せて受付の男性は戻っていった。
「あれ、清香ちゃん?」
食べないであろう食べ物を持ってきていたバックにつめ、飲み物を選んでいると横から声をかけられる。
目の前にいたのは熊袋。
『あ!熊袋さん!』
「清香ちゃん優待席なんだね!といっても今日ここに座るのは君ひとりらしいけど」
清香は冷や汗をかく。
ここから見える10個の席はすべて私のためにとっといてくれたのかな…?
『へ、へーそうなんですかー』
清香は視線を感じ、熊袋の横を見る。
『そ、そちらのかたは?』
「あー!実況のマシンガン真田さんだよ。僕は今回解説者だからね」
『なるほど!私は進清香といいます。よろしくお願いします真田さん』
マシンガン真田は笑顔でこちらを見る。
「いやー!まさか進清十郎くんのお姉さんでアメリカのノートルダム大附属で活躍してた進清香さんに会えるなんて光栄ですよ!本当はあなたにも解説して頂きたいくらいなのですが、今回は観客として、そして王城のマネージャーとしてここでこの世紀の一戦を見守ってください!」
清香は黙り込む。
熊袋が助け舟を出してくれた。
「この人、口から生まれたって言われるくらいよくしゃべる人だから」
『はあ…確かに』
試合が始まる。
prev│next
(11/21)
bkm
back(表紙へ戻ります)
top
※章内ページ一覧へは
ブラウザバックでお戻りください