36th down
試合が始まる。

大和は止まらなかった。

ノートルダム大附属の選手達は次々と抜かされてゆく。

当然だ、アイシールド21の名を背負っているのだから。

『やっぱり、強い』

でも。

清香には心配事があった。

それはパトリック・スペンサー。

パンサーのことだった。

『パンサーくんが出たらこの状況は変わるんだろうな』

もはや大和のスピードは通じない。


試合終盤になる。

清香は帰ってくる選手達に水を手渡しながら戦況を見ていた。

オフェンスが終わり、ディフェンスに入る時、オフェンスに出ていた大和が帰ってくる。

「清香、どうしたんだ」

大和の言葉にはっとする。

『な、なんでもないよ。少し心配事があるだけ』

「俺に言えないことか?」

大和は清香を覗き込んでくる。

清香は軽くため息をついた。

『この試合では大丈夫。問題は次ノートルダム大附属と戦う時だよ』

そう言うと清香はバインダーを手にスカウティング班の元に行った。


『ヤマトの走りについてこれてる相手はいないよね?』

「ああ、それはお前が言っていたことだろう?」

スカウティング担当のコーチが不思議そうに清香を見る。

『あの選手のデータはある?』

清香はボール磨きをしている相手の選手を指さした。

コーチは首を振る。

「いや、あいつは試合に出たことはないはずだ。補欠中の補欠だろ」

そう言って笑う。

清香は笑えなかった。

明らかな人種差別であることは明白だ。

しかしアポロ自身もモーガンとの確執があり、この判断になってしまったのだろう。

清香にはどうすることも出来なかった。

『ありがとう』

残り時間は2分を切った。

最後のオフェンスに入る。


試合はノートルダム大附属の圧勝。

大和の独走だ。

杞憂で本当によかった、と清香は胸をなでおろした。

試合が終わり、皆がハイタッチをする中に、一つの影。

清香は目を見開いた。

パンサーくんだ。

パンサーは大和が持っていたボールを弾き出すと、走り始める。

大和の試合に感化されたのだろうか。

大和はその後を追う。

しかし距離は詰まるどころか離れる一方。

大和は足を止めた。

その表情は言葉では言い表せないものだった。


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bkm



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