試合が始まる。
大和は止まらなかった。
ノートルダム大附属の選手達は次々と抜かされてゆく。
当然だ、アイシールド21の名を背負っているのだから。
『やっぱり、強い』
でも。
清香には心配事があった。
それはパトリック・スペンサー。
パンサーのことだった。
『パンサーくんが出たらこの状況は変わるんだろうな』
もはや大和のスピードは通じない。
試合終盤になる。
清香は帰ってくる選手達に水を手渡しながら戦況を見ていた。
オフェンスが終わり、ディフェンスに入る時、オフェンスに出ていた大和が帰ってくる。
「清香、どうしたんだ」
大和の言葉にはっとする。
『な、なんでもないよ。少し心配事があるだけ』
「俺に言えないことか?」
大和は清香を覗き込んでくる。
清香は軽くため息をついた。
『この試合では大丈夫。問題は次ノートルダム大附属と戦う時だよ』
そう言うと清香はバインダーを手にスカウティング班の元に行った。
『ヤマトの走りについてこれてる相手はいないよね?』
「ああ、それはお前が言っていたことだろう?」
スカウティング担当のコーチが不思議そうに清香を見る。
『あの選手のデータはある?』
清香はボール磨きをしている相手の選手を指さした。
コーチは首を振る。
「いや、あいつは試合に出たことはないはずだ。補欠中の補欠だろ」
そう言って笑う。
清香は笑えなかった。
明らかな人種差別であることは明白だ。
しかしアポロ自身もモーガンとの確執があり、この判断になってしまったのだろう。
清香にはどうすることも出来なかった。
『ありがとう』
残り時間は2分を切った。
最後のオフェンスに入る。
試合はノートルダム大附属の圧勝。
大和の独走だ。
杞憂で本当によかった、と清香は胸をなでおろした。
試合が終わり、皆がハイタッチをする中に、一つの影。
清香は目を見開いた。
パンサーくんだ。
パンサーは大和が持っていたボールを弾き出すと、走り始める。
大和の試合に感化されたのだろうか。
大和はその後を追う。
しかし距離は詰まるどころか離れる一方。
大和は足を止めた。
その表情は言葉では言い表せないものだった。
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