6th down
試合は73-0でエイリアンズの圧勝。

当然のことだった。

いくら大学生といえども本場アメリカには適わない。

清香は複雑な気持ちだった。


着替え終わり、バスに乗り込む選手たち。

清香もアポロの前に座った。

アメリカの選手たちは身体が大きいため、席からはみ出そうだ。

高速道路を通っていると、外を見ていたパンサーが急に声を上げた。

「おー、あれ日本っぽい!」

「”寺”だね!」

ワットが説明をし始める。

清香はその様子を笑って見ていた。

「テラって確か…全員頭丸めてるんだよ!」

だよね、キヨカ!とジェスチャーをしながら尋ねるワット。

『今は髪の毛生やしてるお坊さんもいるけどね。基本は丸めてるよ』

「パンサーみてぇにか?」

ホーマーが笑いながらパンサーの方を向く。

「俺のは編み込んでんの」

パンサーがヘアバンドをはずし、ホーマーに見せる。

『アメリカは編み込み多いもんねー』

アメリカ時代にもチームメイトにいたっけ、と思い出す清香。

「そういや、そのヘアバンドいつもしてるね」

ワットが席を立ちながら尋ねた。

清香もその理由が知りたくて、席から身を乗り出す。

「これは…黒人のバネを活かせるようにって、ばあちゃんが黒豹を刺繍してくれたんだ」

清香は笑った。

『いいおばあちゃんだね。会ってみたいな』

「俺もキヨカを会わせたいよ!」

そのときだった。

横から手が伸びて、パンサーの手元からヘアバンドを奪う。

『えっ』

奪ったのは清香の後ろの席に座るアポロ。

『アポロ…さん?』

「お前らが暴れるから靴が汚れただろ!」

そういって自分の座っていた席に足を乗せる。

まさか…。

清香は息を飲んだ。


「ちょうどいい雑巾だ」


清香はそれを聞くやいなやアポロからヘアバンドを取り返すためにアポロの方へ身を乗り出す。

そんな清香の身体は受け止められた。

清香が息を荒げながらその人物を見ると、首を振っているホーマー。

慌ててアポロの方を見るとパンサーがアポロの背後から殴りかかろうとしていた。

「!!」

ホーマーは抱き留めていた清香から身体を離すと、すぐにパンサーを止めようとする。

『ひっ…』

ゴッという鈍い音がバスに響いた。


ホーマーはパンサーを殴って止めた。

確かに今のパンサーは清香のように受け止めるだけじゃおさまらない。

清香は最善の方法だと思った。


「フン、チームメイトにも殴られる始末か」

そういってアポロは窓の外へヘアバンドを放り出した。

清香は窓にかじりついてそれを眺めることしかできなかった。

ホーマーはパンサーを後部座席へ横たわらせると、こちらへ歩いてきた。

パンサーがアポロを殴りたかった気持ちが痛いほど分かる。

清香は唇をかみしめた。

ホーマーがこちらに戻ってこなければ、アポロに突っかかるところだった。

「よく、抑えたな」

『…ホーマーのおかげだよ』

「殴りたかったろ」

こそっとアポロに聞こえないように囁くホーマー。

清香は俯いた。

『それを一番思ってるのは、パンサーくんだから。私は殴れない』

「違いないな」

ホーマーは悲しげな様子で清香の横の空いている席へ腰を下ろした。

「あんなに必死なお前、初めて見た」

『そう?結構いつも必死だけど』

「そっか。こういうのには冷静だと思ってた」

清香は軽く笑った。

『クリフォードとMr.ドンには、もっと必死だった』

「え?」

清香が小声で呟いた言葉にホーマーは聞き返す。


『ううん。なんでもない』




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