『はあ!お腹いっぱい!』
「栄養を摂取しすぎではないのか」
昼ご飯を遊園地内のレストランで済ませた二人。
清香は手元にあったコップの水をあおると、正面にいた清十郎の方を向いた。
『摂取しすぎは余計です。運動すればいいの!』
「ならば帰りは走って帰るか」
真顔で言い放つ清十郎。
清香はため息をついた。
『え、ここから家まで何kmあると思ってるの?』
清十郎はあくまでも真面目に言っているのだから質が悪い。
清香は頼もうとしていたアイスクリームを諦めて、テーブルの上に地図を広げる。
「胃腸の消化のことを考えれば極力動きの少ない乗り物に乗るのが望ましい」
『そうだね。ここからだとジャングルクルーズが近いし、説明によると動きは激しくないらしいよ?』
清十郎は頷き、席を立つ。
会計を素早く済ませると、清香も急いでレストランから出た。
『ねえ、デートって男がおごるんじゃないの?』
「それは人によると思うが。しかも俺たちは姉弟なのだから今回は会計についてはデートと思わない方が賢明だ」
『あ、うん。そうだね』
清香の出所不明なデート論はバサリと切り捨てられてしまった。
まあいいか、と納得しつつ清香は清十郎の後をついて歩く。
清十郎がふと口を開いた。
「デートというものは…」
「こちらからお並び下さい!」
ジャングルクルーズにつく。
清十郎の言葉は係員の誘導の声によってかき消された。
『清十郎!あとで聞くね!今は乗らなきゃ』
今は食事時のため、ジャングルクルーズはそう並ばずに乗ることが出来た。
二人が船型の乗り物の席に座ると、ジャングルクルーズがスタートする。
ジャングルを模したアトラクション内では様々な動物が姿を現す。
清香がそれぞれの動物に嬉々としている間、清十郎は清香の顔を横から見つめていた。
「清香」
開いた口から零れ出る言葉。
清香はそのトーンに驚いて清十郎を見た。
「俺には、デートというものはよく分からない」
ジャングルの中から鳥の声が聞こえる。
その声すら気にならないほどに清香は集中して清十郎の声を聞いていた。
「ただお前と一緒にこうして過ごすことが、なんというか…その」
清十郎は途中まで言った言葉を切り、どもり始める。
清香は思わず笑った。
『不器用なところは似てるよね、私たち』
清香は前に向き直った。
『私はね、一緒に過ごせて嬉しいよ』
清香は自分の頬が赤くなるのを感じた。
弟にいうのには場違いな台詞な気がして、少しはにかむ。
「…俺もだ」
横から微かに聞こえる、トーンの低い声。
清香は口元が綻んだ。
ジャングルクルーズが終わり、清香は辺りを見回す。
『最後に観覧車行く?』
清十郎は頷こうとした。
その時だった。
「あれ、清香と…進!?」
聞き慣れた声。
少しやわらかな雰囲気を持つそのトーンを聞いて清香はその声の持ち主を見た。
『は、春人…?』
清香が驚いたように清十郎も驚いていた。
声をかけた人物、もとい桜庭は二人を交互に見ると駆け寄ってきた。
「二人で遊園地なんて意外だなあ」
『春人こそどうしたの?』
「俺は仕事だよ。さっき撮影が終わってさ」
清香と清十郎は筋肉を見分けるためすぐに分かったが、確かに桜庭はサングラスに帽子という所謂変装というものをしていた。
「しばらくいる予定だったから一緒に行ってもいいかな?」
清香は快く頷いた。
清十郎は少し迷ったが、清香を見て頷く。
「それにしてもなんで二人で遊園地に?」
清香は困ったように笑う。
『デートの練習だよ!』
この間春人が言ってたでしょ?と清香は続ける。
桜庭はきょとんとした顔になる。
しかし次の瞬間笑い出した。
「確かに言ったね!」
桜庭はちらりと清十郎の表情を見た。
「でも姉弟デートか…せめて俺を誘ってくれればよかったのにな」
「桜庭、何か言ったか」
小声の桜庭を訝しむ清十郎。
「いいや!な、なんでもないよ」
『私達と一緒に行くってことは…春人もデートの練習するの?』
実際に桜庭がデート先に遊園地を勧めた理由には、一般論と自分の願望が混ざっていた。
先ほどの清香の言葉で清香と(練習ではあるが)デートができる状況であると察した桜庭。
「ああ!俺がデートとは何か教えてあげるからさ」
桜庭はそう言い、心の中でガッツポーズをしたのだった。
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