33rd down
王城で高見と別れ、駅に着く。


清香たちが王城へ行った後、そのまま泥門駅前にあるレストランで待ち合わせることにしていたのだ。

母親は車で先に向かっている。

清香はレストランに行くために左端線の電車に乗り込む。

清十郎は走って向かうらしい。

昔に比べてストイックさが増しているんだけど、なにかあったのかな。

清香は満員電車に詰め込まれながら、そう考えた。

もちろん以前から弟はこんな感じだったので確信はないが。


『ん…?』


電車に乗ってしばらくすると、なにかが清香の足に触れる。


『あれ…?』


いつの間にか窓際にいたことに気付く清香。


『これって…』


清香は心臓がびくりと跳ねるのを感じた。

これって、痴漢?


清香は後ろを向こうとするが、すぐ後ろには背の高い男性がいるということしか分からなかった。

『いやでも、ただ手が当たっているだけかもしれないし…』

そう考えている間に動きが大きくなってゆく手。

清香は本格的に焦り始めた。

もちろん痴漢にあうなんて初めてで、どうすればいいかも分からない。

男性のゴツゴツした手が足を撫で、さすがに我慢できなくなった清香。

次の泥門駅でその痴漢の手を掴んでやろうと心に決める。


”まもなく、泥門、泥門です”

電車内にアナウンスが響く。

清香は心の中で頷き、電車がホームに止まった瞬間に男の腕を掴む。

しかしそこにはなにもなかった。

空を切る手。

そして…

『えええ!?』

空を舞う男性。

清香の後ろにいた男は何者かによって、清香の頭上を通り、そのままホームに引きずり出されていた。

我に返った清香は慌ててホームに下りる。

そしてそこにいた痴漢をしたのであろう中年の男性と、助けてくれたドレッドヘアの男性を見た。

男性というより、清香に近い年齢ではないのだろうか。

「やあ大丈夫?怖かったでしょ?」

サングラスを外し、きらめくような笑顔を見せてくる男性。

『は、はあ』

中年の男性はいつの間にか、少し遠くで金髪の人と話をしていた。

清香は改めて助けてくれた男性を見た。

「君可愛いね、いくつ?どこにすんでるの?」

清香が自分を見るやいなや、執拗に質問を投げかける男性。

『え、えっと……あ』

清香は携帯を取り出す。

母親との待ち合わせ時刻を5分過ぎていた。

『ご、ごめんなさい!ちょっと用事があって!!』

清香はぺこりとお辞儀をすると、駅の階段を駆け上る。


それを見送る男。

「あー、折角の上玉を逃がしちまった」

金髪の男が笑う。

「いいんじゃねぇか?そんなに気に入ったんならあいつが東京にいる限り、俺の情報網使えや会えんだろ」

「ちっ、てめぇに頼むのが気に食わねえんだよ」

男は舌打ちをした。

「名前くらい聞いときゃよかった」



清香は申し訳ないと思いつつも、レストランへと走る。

この泥門駅のレストランはよく来ていた場所なので、迷うことはなかった。

降り口には清十郎がいた。

「遅かったな」

『ごめんね、ちょっと色々あって』

清香は苦笑いで誤魔化す。

清十郎に知られれば犯人も無事ではすまない。

痴漢にあったのは自分がぼーっとしていたためだと自分に言い聞かせる。


その日、清香は痴漢のことなどすっかり忘れ、家族で食事を楽しんだのだった。




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