清香が清十郎にアメフトをやっているということを話すと、別段驚くこともなく納得された。
そして次の日、清香と清十郎の誕生日でもある日に、清十郎の所属する王城中学アメフト部を見学することとなったのだ。
『清十郎、王城…広くない?』
「ああ」
清香の目の前に広がるのは巨大な噴水。
その周りを覆うように中世ヨーロッパ風の壮大な建物が広がる。
清香は口をぽかんと開けて上を見上げていた。
「清香が来たいと言うから来たが、今日はそもそも部活が休みの日だ」
『え、それ先に言って!』
「明日には戻る予定なのだろう?ならば今日しかない」
清香は淡々と話す清十郎を見てため息をつく。
その通りなんだけど、なんか納得いかない…!
『じゃあ今日は誰もいない?』
清十郎に尋ねると即頷かれる。
清香はがくりと肩を落とし、落ち込む。
「フィールドだけでも見るか」
清香はしぶしぶ頷く。
せっかく日本のアメフトが見られると思ったのに。
フィールドへ向かって歩いていると、人がいないはずの部室から誰かが出てきているのが見える。
清十郎も気づいたようだ。
「…高見さん?」
「タカミ?」
向こうも気づいたようで、清香と清十郎の方へ近寄ってくる。
「進じゃないか。今日は休みと言ってあったはずだが」
「ええ。それは心得ています」
高見は清十郎の横にいた清香に気づく。
「…この子は?」
「自分のきょうだいです」
高見は驚きのあまり素っ頓狂な声をあげる。
清香はそれを見て少し笑ってしまった。
『えと、よろしく!』
「清香、高見さんは先輩だ」
『え!?よ、よろしくです…』
高見はしばらく清香をじっと見ていたが、清香の言葉を聞くとぷっと吹き出す。
「いや、いいんだ。よろしくな。清香…というのか?」
『うん…ごめん、ちょっと敬語使い慣れなくて』
「清香は今アメリカに留学しているんです」
清十郎が付け加える。
高見は納得したように清香に笑いかけた。
「別に気にしないさ。敬語を使う必要はないよ」
『ありがとう!タカミって優しいね!』
清十郎は少し顔をしかめる。
清香が敬語を使えないのを高見に申し訳なく思っているのだろう。
「俺は高見伊知郎っていうんだ。伊知郎って呼んでくれ」
眼鏡を押し上げ、優しく笑う高見。
「それにしても進にこんなに可愛い妹がいるとは思わなかったな」
清十郎と自分より身長の低い清香の頭をぽんぽんとなでる高見。
清香の表情が固まる。
『伊知郎、私、妹じゃない』
高見の笑顔も固まる。
「まさか、弟とか言わないよな?」
「高見さん、清香は姉です。俺たちは双子なんです」
高見は黙りこくっている清香を宥める。
「清香、す…すまない!」
『いや、大丈夫!私が清十郎より中身が幼いってのは分かってたし』
あたふたとする高見を複雑な気持ちで見つめる清十郎。
「高見さん、引き止めてしまってすみません。部室へ用事だったのですか」
急に話題転換をする清十郎を不思議に思いながら、高見は答えた。
「あ、ああ。いや、日誌を書き忘れていたことを思い出してな」
『伊知郎って真面目なタイプのQBなんだね』
高見の視線が清香に向けられる。
「俺が、QBって教えて貰っていたのか?」
『ううん!だって腕の筋肉の付き方がQBなんだもん!』
清香はえへへと笑う。
高見は訳が分からずに清十郎の方を見る。
そして感づいた。
「なるほどな…」
高見は笑った。
「進、確かに彼女はお前の”きょうだい”だ」
清十郎は清香にも気づかれないほどの笑みを見せる。
「はい」
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